(5)様々な認知症の症状について - 2 認知症の人の8割くらいの方が抱える症状として、「BPSD(Behavioral and Psychological Symptom of Dementia):認知症に伴う行動と精神の症状」があります。 【うつ状態】 いちばん良く見られるのは、うつ状態です。このうつ状態に対してどう対応するかということが注目されているのは、うつ状態から次の症状が生まれてくるということからです。 うつ状態になること自体は、おかしいことではありません。認知症によって、いきなり自分の人生が変わってしまうわけですから。今までわかっていたことがわからなくなってしまったり、今まで日常生活でできたことができなくなってしまう。こういう状態になって、うつ状態になることは、恥ずかしいことではないのです。 【妄想】 妄想という症状もあります。ケアの現場でよくあるケースは、認知症の方が「ものを盗まれた」と思ってしまうことです。今日はみなさんのうち女性の方が9割ですけれど、恐らくほぼ全員の方がハンドバッグを持っておられると思います。女性は、ハンドバッグの中に入っているものが自分の人生にとって大切なもの、ハンドバッグの中に自分の人生が入っていると思うような感覚が強いんです。 日常生活の中では、自分の大切なハンドバッグは、必ずいつも同じ場所に置いたりします。ところが、認知症がもとで、ハンドバッグをいつもの場所に置いても、置いたことを忘れてしまう。どこに置いたかを忘れてしまう。そういったことを経験した方は、落ち込んでしまうのですね。自分の大切なものはどこにあるのだろう、と。 また、ハンドバッグを隠したりする場合もあるのです。大切なものを隠して、それで記憶障害があるので、隠したことを本人も忘れてしまう。それも「どこに隠したか」を忘れるのではなくて、「隠したこと」それ自体を忘れてしまうのです。それで、後になって、ハンドバッグがどこにあるのかが、わからなくなってしまう。 ケアの現場のスタッフであれば、そういったハンドバッグが大抵どこにあるかはわかるのです。それはなぜかというと、何年もハンドバッグ探しの仕事をしてきているのですから(笑)。枕の下などにあることが多いのです。 【幻覚】 実際にはないものが見えるという、「幻覚」という症状もあります。蜘蛛などの虫や、ねずみとか、嫌なもの、怖いものが見えてしまうのです。 このように、他の人には見えない何かが見えるということは、その人にとって、それは真実であり、事実なのです。ですから、その人が何かを見ているということを、周りの人は受け入れなければなりません。それはその方の真実なのですから。 【混乱】 認知症の方が混乱を起こすのは、例えば新しい薬を使うようになった時や、施設に入居するなどして環境が変わった時などによく見られます。スウェーデンでは、認知症の症状が出ている場合にはなるべく薬は少なく出します。その薬もとても弱いものを出します。 そして、ある意味では薬を減らすためにも、その替わりにいろいろな補完的な手法が取られています。今日ご紹介するタクティールケアもそのひとつです。 混乱は、いろいろな感染症とも関わる場合がありますから、混乱が引き起こされる原因が認知症なのかどうかということは、よく調べなければなりません。例えば、感染症になったために身体が痛くなり、そのせいで混乱してしまうというケースもあるからです。 >> 次号へつづく
※本稿は、2008年7月5日に舞浜倶楽部 新浦安フォーラムで行われたオープンセミナー「スウェーデンにおける認知症ケアの理念と手法」における、アンソフィ・オドワィヤーさんの講演をもとに作成しています。