高齢者ケアに大切なこと 2006.07.10更新
《 誰かをケアするためには、私は多くのことを知る必要がある。
たとえば、その人がどんな人なのか、その人の力や限界はどれくらいなのか、
その人の求めていることは何か、その人の成長のたすけになることはいったい何か−−−などを私は知らねばならない。
そして、その人の要求にどのようにこたえるか、
私自身の力と限界がどのくらいなのかを私は知らねばならない。》
(『ケアの本質』ミルトン・メイヤロフ 著、田村真 訳 ゆみる出版 1987年)
介護に関する具体的な知識・技術をご紹介していく前に、
まずは、高齢者ケアにおける基本的な考え方を知っていただきたいと思います。

介護付老人ホーム〈舞浜倶楽部〉では、
「人格の尊厳」を基本理念としたケア方針に基づいて、
高齢者ケアを行なっています。

冒頭でご紹介したM・メイヤロフの著書にもあるように、
高齢者ケアにおいては、
まず、ご高齢者の方それぞれの人の考え方や希望を丁寧に聞くことが大切です。

そして、相手の方のお話をよく聞いたうえで、
「ご高齢者本人こそが、その方の生活の主人公である」ということを、
ケアする立場の人が改めてしっかり理解することが必要となります。

その理解があってはじめて、
ご高齢者ひとり一人の生活スタイルに合わせた
「適切なケア」を行なうことができるようになるのです。

ご高齢者の方ひとり一人のかけがえのない人生を、
まわりの人たちがコミュニケーションを通して理解していくこと。

そのことが、高齢者ケアにおいては、とても重要なことなのです。


このような考え方のもとですすめられている高齢者ケアプログラムから、
次回は「ケアカンファレンス」について、ご紹介いたします。




ケアカンファレンスについて(1) 2006.07.24更新
高齢者ケアを行う上では、ご高齢者の方のお気持ちをしっかりと汲み取ることが大切です。

けれども、ご高齢者の中には、体に病を抱えた上、複雑な個人の歴史を背負った方々もいらっしゃいます。その心を理解するのは容易なことではありません。
ご本人をとりまく人間関係にも、対処の難しい場面が現れてくることがあります。

さらには、ケアをする人が、ご高齢者の心の理解に難しさを感じるだけでなく、周囲の人との人間関係に悩んでしまう、というケースも起こり得ます。

そのようなときに、ご高齢者の方々の心身の問題や人間関係の難しさに対して、充分に時間をとり落ち着いて向き合うことができるでしょうか。
同時に、ご高齢者の方や周囲の人とより良い人間関係を築くために、「ケアをする人」が自分自身とゆっくり向き合うことができるでしょうか。

舞浜倶楽部では、お住まいになられているご高齢者の方お一人おひとりへの理解を深めるために、スタッフによるミーティングを毎日行います。
また、その中でも、とくに積極的な取組みが必要となる課題がある場合は、長年高齢者ケアに携わられている心療内科の先生の指導のもとで「ケアカンファレンス」を行い、時間をかけて話し合ってきました。
「互いに見知らぬ存在としての医師と患者が出会い、患者の混乱を医師が理解することによって病気を治す科学」としての精神医学は、私たちがご高齢者の心を理解することの難しさに直面したときに、有効な対処方法を示唆してくれることがあるからです。

この「ケアカンファレンス」のように、ケアを行う上でのさまざまな課題について視点を変えて向き合い、有効な対処法を丁寧に見つけていくこと。
それが、高齢者ケアにおいては、とても大切なこととなります。



次回も「ケアカンファレンス」について、引き続きご紹介いたします。




ケアカンファレンスについて(2) 2006.08.07更新
ご高齢者の方とより良い人間関係を築くためには、相手の方の心や体の問題に、いろいろと視点を変えて配慮することが大切です。
今回は、ご高齢者の人との向き合い方などについて、心療内科の先生からのいくつかのアドバイスに耳を傾けてみましょう。

「ご高齢者の方から何か相談があった場合、お話の内容を理解するためには、その人の性格やこれまでの生活の歩みに照らして相手のプロフィールを眺めてみることが、とても大切になる場合があります。」

「肉親や伴侶に先立たれてしまわれた方は、愛する人を失った現実のなかで危機感を抱え、不安やパニックにおちいります。その状態から自分の『普段』のバランスを取り戻すまでの心の回復、悲しみから普通の生活へ前向きに変わっていくプロセスには、時間の経過と周囲の理解、精神的な援助が必要となります。」

「人は何かを『失った』ときに、失ったものが大きければ大きいほど、それに対する反応の度合いは強くなり、それは病気ではありませんが、時には病的になることもあるのです。
また『失うこと』とは、広く当てはめると対象は人ばかりではなく、長年つとめてきた仕事からの退職や住み慣れた家からの転居、また老いによって失われていく若さや体の能力などもあてはまります。」

「ご高齢者の方とのコミュニケーションが難しい状況でも、コミュニケーションを取ることをあきらめてしまってはいけません。」

高齢者ケアにおいては、ケアをする人が、相手のご高齢者が「どのような人なのか」「どのような心の状態におかれているのか」をしっかりと理解した上で個々の対応をとる必要があるということを、先生の言葉から学ぶことができます。


次回も「ケアカンファレンス」について、引き続きご紹介いたします。




ケアカンファレンスについて(3) 2006.08.21更新

ご高齢者のケアにおいて、特に配慮が必要なケースとして、相手の方の〈見かけや態度〉と〈心の中の状況〉とが食い違っている、という場合があります。

「ご高齢者の方が病気になられた時、そのことをありのままに受け容れられていないというケースがあります。さらに、病気によって見た目にも体の変化があった場合には、そのことをとても恐れる気持ちがご本人の中に強くなります。
 その結果、ご高齢者の心に複雑な変化が引き起こされてしまうと、他の人との関係をうまく続けられなくなり、周りの人につらくあたったり、時には攻撃的な言葉を投げかけたりするようになることがあります。」

「人は追い詰められると、最初のうちは落ち込んでいきますが、その後とことん追い詰められると、『窮鼠猫を噛む』という言葉のように、逆に攻撃的な姿勢に転ずることがあります。そういった追い詰められている状態においては、実際にはその本人はとても困っているということがあります。
 見かけは攻撃的で元気そうなので、困っているようには見えません。周囲はその人に振り回されているものだから、余計にその方の心の中にある悩みを見過ごしてしまいます。
 そのような状況においてこそ、ご高齢者本人が心の中では悩んでいるということに気付き、配慮していくことが大切です。」

「ご高齢者の方の気持ちを理解しようとすることや、生活をとりまく環境への配慮などに具体的に取り組んでいくプロセスは、ケアをする立場の人たち自身の成長にも繋がります。」

第1回でご紹介した『ケアの本質』の著者メイヤロフは、「単に好意や温かい関心を示すことだけ」ではケアをすることはできない、と言います。

ケアをする側の人にとって、ご高齢者の方々はかけがえのない「先生」ともいうべき存在です。ご高齢者の方にしっかり向き合い、時間をかけてケアという行為に日々取り組んでいく姿勢がいかに大切であるかを、ケアカンファレンスでの心療内科の先生からのアドバイスを通して学ぶことができました。


次回は認知症ケアセミナーについてご紹介します。





認知症ケアセミナー(1) 2006.09.04更新

スウェーデンは社会福祉の先進国として、これまで日本の福祉システムのモデルとなってきました。そのスウェーデンで、いま、どんな新しいケアの実践がなされているかは、大変関心があるところです。私たちは、スウェーデンから認知症緩和ケアの専門家オーサ・クラムボーン先生をお招きし、高齢者ケアについての指導をお願いすることにしました。実践現場でオーサ先生と共に過ごしながら、最新の認知症ケアについて幅広いお話を伺いました。

【老化について】

はじめに、「年をとる」というお話からはじめましょう。

そもそも「年をとる」ということは“よいこと”なのでしょうか。それとも、それは“こわいこと”なのでしょうか。その結論は、それぞれの人の頭の中でその本人によって決められることなのです。

そのため、介護をするときには、まずはじめに「年をとったこと」について、介護するその相手の方がどう思っておられるのかを、理解する必要があります。

加齢によって、いろいろなことを忘れていったり、今までと同じように社会参加しなくなることによって、日にちや時間がその人にとって重要な事柄でなくなったりする。あるいは、昔のことを思い出し、考える時間が増えたりするということなどは、「自然な老化」によるものと言えます。

さて、老化のなかでも、このような「自然な老化」とは違った形の老化として、高齢者自身にとっても、社会の人々にとっても“こわい”と思われている「認知症」という老化があります。

>> 次号へつづく


認知症ケアセミナー講師 オーサ・クラムボーン(Asa Cramborn)先生

「認知症になられた方が思っていることを、彼や彼女たちの本当の「声」を、
周囲のひとたちに伝えてあげたい。」


〈プロフィール〉
1972年 セントラース精神医療病院で看護業務
1986年 マルメ市 社会福祉サービス局長
1989年 ルンド市 社会福祉サービス局長
1990年 エスロヴ市介護教育指導者(現職)

(オーサ・クラムボーン先生は、2005年10月より6カ月間、
スウェーデン福祉研究所会員・舞浜倶楽部に滞在しました。)

オーサ・クラムボーン先生 オーサ・クラムボーン先生
       





認知症ケアセミナー(2) 2006.09.19更新

認知症には「アルツハイマー型」「脳血管型」「前頭葉型」「複合型」などの種類があります。ここでは「アルツハイマー型認知症」に焦点を当てて、オーサ先生のお話を聞いてみましょう。

【アルツハイマー型認知症について】

アルツハイマー型の認知症は、主に高齢者に見られることが多いのですが、30代の若いひとでも発症することがあります。

認知症は、脳のどの部分が失われるかによって症状に違いが出ますが、アルツハイマー型認知症では、脳の側頭葉や頭頂葉の部分にダメージを受け、脳の細胞が複雑に壊れることにより発症します。

自然な老化によっても脳細胞は失われていきますが、アルツハイマー型認知症の場合、脳細胞の壊れていくスピードがさらに速まります。また、アルツハイマーの場合には、脳の萎縮も見られます。

このように、側頭葉や頭頂葉が使えなくなることによって、その人の記憶の能力に影響が出てくるようになるのです。そして次のような症状が現れてきます。

【 アルツハイマー型認知症の症状】

・自分がどこに行くのかわからなくなる。

・服を着ることができなくなってしまう。
(例えば、ズボンと靴下などを同時に全部渡すと、それらを身につける順番がわからなくなってしまい、混乱が生じます。ですから「まずズボンをはいてから次に靴下をはく」という具合に1つずつ手渡しながら介助を行います。)

・自分の意志で何かをしたいと思わなくなる。
(自分の意志がなくなると、スタッフなど他者からの刺激が必要になります。)

・時間という概念についてわからなくなり、混乱を起こす。
(例えば「8時」という時間を伝えても、それが朝なのか夜なのかを状況から判断することができません。)

・ある物について、使い方は説明できても、その名前(言葉)を忘れてしまう。
(例:「書くもの」という表現はできても「ペン」という名称がわからなくなる。そのような時に繰り返し名前を教えたりすると、本人の自信を失わせてしまうことになります。)

・道具の使い方についても混乱してしまう。

>> 次号へつづく




認知症ケアセミナー(3) 2006.10.02更新

【アルツハイマー型認知症の初期段階】
ご高齢者がアルツハイマー型認知症になるまでには、長い時間がかかります。その過程において、その方がイライラしたりひきこもってしまったりするというケースが見られることがあります。

例えば、アルツハイマー型認知症の初期の症状として、短期記憶*が悪くなったり、いつも運転していたよく知っているはずの道が分からなくなったりすることなどが挙げられます。すると、自分が色々なことを忘れていくことに対して不安を感じてしまい、それが原因となってひきこもってしまうことがあるのです。

このような理由でご高齢者がイライラしたりひきこもってしまった時に、大抵の場合、周囲の方にはなぜその方がイライラするのか、その原因が分かりません。定年になったからだろうかとか、やることがないからだろうか、などと戸惑ってしまいがちです。

*短期記憶とは、だいたい数十秒間のとても短い間だけ記憶される記憶のこと。

【認知症の診断 〜本人と家族〜】
一般的に、医師から認知症の診断を受けた場合は、そのご高齢者のご家族は混乱したり、恥ずかしいと思ってしまわれることがありますが、上記のようにご本人も周囲も困ってしまっている状況においては、逆に、症状の原因や理由を見つけてもらったことで、落ち着くことができるという場合があります。

スウェーデンで認知症についてある調査を行ったところ、認知症の方には大きく2つのタイプが見られました。ひとつは、その方の中に幸せな気分が残っていて、ご自分の人生は意味のある人生だと思っておられるタイプ。もう一方は、自分のことや自分が生活してきた過去の時間についてよく分からなくなり、不安な気持ちになられるというタイプです。後者の場合は、自分のことが分からず他者との関係を築くことが難しくなります。このとき、その方の人生の歴史を理解しないことには、良いサポートはできません。

また、この調査では、認知症の方を支える良い環境があると、その認知症の方は楽観的で幸せな気持ちになれますが、それがないと自分は誰なのかとどんどん混乱してしまうという結果も見られました。

認知症の診断を受けた方のご家族が、診断後の早い時期に、同じような境遇にある方たちとお互いの話をしたり悩みを相談して情報を共有することも、認知症への理解を深め、認知症と上手につきあっていく上でもとても大切なことです。

>> 次号へつづく





オーサ先生の自己紹介。 2006.10.16更新

今回と次回はWEBセミナーの小休憩をとらせていただき、認知症ケアセミナー講師のオーサ先生のことと、先生がカリキュラムをもつエスロヴ市の成人学習講座「ケアプログラム」などをご紹介します。

【私(オーサ先生)のこと(あらためての自己紹介)】
現在、私はエスロヴ市の成人学習講座「ケアプログラム」で専門教員として働いています。私の仕事は、理論的に、そして実践的に学生を教育することです。
「ケアプログラム」の学生たちは、タイプの異なる認知症の知識や、病気への対処方法、患者やその家族を支援する方法を学びます。教育期間中、学生たちは認知症の方の訪問ケアを実践で行います。訪問ケアの現場で彼らを指導することも私の役割です。

1972年に、私は精神科医療の病院で看護師として仕事を始めました。その後、大学で障害者と高齢者のケアサービス、そして看護教育を修了し、マルメ市とルンド市で社会福祉サービス局長として高齢者と障害者のケアに5年間携わりました。この仕事は、私に認知症を患った人についての幅広い経験を与えてくれました。また教師としての私に大きな価値を与えてくれました。

【エスロヴ市について】
エスロヴ市(Eslov Kommun)は人口約3万人の小さな自治体です。2005年現在で65歳以上の市民は人口の16.3%(4820人)です。2010年には18%に上がる(520人増)見込みです。自治体では今後の社会をどのように支えていくか、サービスや住居の問題などについて高齢者にアンケートを取ったり話し合いをしながら、その方法を検討しています。
そのいくつかの動きを紹介しましょう。

・一人ひとりの高齢者がもっている能力を集めて、一緒に活動しようという動き。年金需給者になってからも社会的に働いていきたい、意味のある人生を送りたいという人々が集まるための場所が提供されました。

・人々の住居も自然の中に作ったり、仕事をしていない時でもアクティビティ等が簡単に手に入る街づくりをしています。

・現在の住居に不都合が出てきたときも、自治体が修理して引き続き住めるようにするサービス。又、バリアフリーの手当てを支給するなどして、なるべく施設へ入らないで済むようにしています。

・最近始まったサービスのなかには、家の中の修繕など細かいことを手助けするサービスがあります。(例えばカーテンや電気を直したい、庭にある椅子を外に出してもらいたい等の相談に応えます。高齢者が自分自身で行うと転倒の危険もあり、仮に転倒して骨折した場合500万円くらいかかるため、それを予防する意味でのサービスです。)

・高齢者の家族に対してのサポートも行っています。


>>次回は、オーサ先生が担当されている「ケアプログラム」のカリキュラムをご紹介します。





成人学習講座「ケアプログラム」。 2006.10.30更新

今回は、オーサ先生がカリキュラムを担当されている「ケアプログラム」のご紹介をします。

【エスロヴ市の成人学習講座「ケアプログラム」について】

●プログラムの目的
プログラムの主な目的は、ケアに対する個人の仕事の能力を高めることです。ここで学ぶ学生には、ケアの仕事、あるいは大学進学の為の準備が与えられます。
ケアについて学ぶことは、介護の仕事だけに有用なのではなく、様々な職業についても有用です(スウェーデンでは、このプログラムを修了すると准看護師の仕事に就くことができます)。

●プログラムの特徴と構成
(1)人間の生の全体について学ぶ
このプログラムの特徴は、人間に関する知識、つまり生物学的・心理学的・社会学的・実存的等さまざまな視野から、人間の生の全体について学ぶことです。

(2)看護と介護の出発点
人間の健康と人それぞれの可能性、そして人それぞれがもっているものを高めることが、看護と介護の出発点です。

(3)教育の基本的構成要素
この教育は、心理学・社会学・教育学、医療とケアのサイエンスという基本的なものによって構成されています。

(4)人間の尊厳、平等、健康
この教育の根本的なフィロソフィーは、人間の尊厳、平等、健康にあります。この基本的理念が看護と介護の中心になっています。

(5)連帯と人間の平等
この教育活動は、法によってうたわれている、連帯と人間の平等によって裏付けられています。

(6)倫理観
人のケアには、特に倫理観が重要であり、この教育の全体に反映されています。

「ケアプログラム」カルキュラム内容

カリキュラム表からお分かりいただける通り、ケアプログラムでは「倫理」や「文化」の授業にはじまり、「職場環境」から「社会心理学」まで幅広い分野の知識を充分な時間をかけて修得していきます(全カリキュラムに対し講師が数名いて、互いに協力してカリキュラムを総合的に進めるなど、工夫を加えて理解を促していきます)。
高齢者ケアについて学ぶということは、必然的に自分自身を知り、人間関係の本質について理解を深め、社会を学ぶということにつながります。ケアプログラムで学ぶ知識と経験は、将来ほかの職業につく場合にも必要なものであり、特に人間関係にかかわる仕事に役立てることができるのです。

>>次回は、認知症ケアセミナー(4)をお送りします。





認知症ケアセミナー(4) 2006.11.13更新

スウェーデン・エスロヴ市から舞浜にこられたオーサ・クラムボーン先生による、認知症の方のケアについてのお話を、ひきつづきすすめましょう。

【認知症の方の気持ちに寄り添うこと】

認知症の方のケアでは、まずその方のご様子、生活の状況などをよく見て、それから症状を見るようにするべきでしょう。
認知症の大きな特徴として、抽象的なことがわからなくなってしまう、ということがあります。そのため、認知症の方が、あまりたくさんの刺激を受けすぎないようにすることが大切です。
認知症の方がストレスを感じてしまうと、混乱してしまい、大きな声をあげたり、歩き続けたり、色々な物に触ったりする、というようなことが起こります。
ストレスを少なくするためには、うるさい音がなく、ザワザワしていない落ち着いた生活環境を作ることが大切です。
認知症の方の立場に寄り添って考えてみるために、まずはその方が置かれている状況に、1時間でも身をおいてみてください。
見ず知らずの人に囲まれて、誰とも話すことがないというような時間をどう感じますか。
思い出せない何かについて考えているときに、身の回りに刺激が多すぎるとどう思いますか。
認知症の方のケアに向き合うとき、症状や病気から判断するだけでなく、その方をよく見て、その方の立場で物事を感じてみてください。

【スタッフからオーサ先生への質問】

Q:ご両親がすでに亡くなられているご高齢者が、「親が心配なので電話をかけたい」などと言われることがあります。そのような時、本当のこと(「もうご両親は既に亡くなられていますよ」)を伝えるべきなのでしょうか。

A:「亡くなられている」とは直接言わないほうがよいでしょう。たとえば「ご両親は何をされていた方ですか?」などと話の方向を変えてみるとよいでしょう。話しているうちに、他のいろいろなことを話し出されることもあるでしょう。 そして時には、ご自分で大事なことを思い出されることもあるでしょう。 「電話をかけたい」というような言葉の内には、安心感を得たい、あるいは自分自身を見つけたいという気持ちがこめられていると思います。認知症のご高齢者の目線に合わせて、その方がどのように感じておられるのかを考えることが大切です。

>>次回以降は、認知症の方をどのように支えていくのか、目標やそのためのポイント、日常生活でのヒントなどについて、お話をうかがっていきましょう。





認知症ケアセミナー(5) 2006.11.27更新

【自分の場所探しを応援する】

認知症の方にとって、「自分の場所」を見つけることは大切なことです。
認知症になると、自分が誰なのか、自分が人生のどのあたりにいるのかが分からなくなってしまうため、いつも自分の安心できる場所を探すことになります。

安心できる場所というのは、家族や子供たちと自分との歴史のあるところ、自分の人生で意味のあるところのことです。昔のことをよく思い出し、そのことについて話し始めるのは、この安心できる場所を探しているためです。

昔の歌やメロディは、認知症の方にとってとても安心できるものです。気持ちが一緒になれるので、ケアをしている人が一緒に歌ってみるのはよい方法です。

認知症の方は、自分を探しています。そして、周りの人にそれを応援してほしい、傍らにいてほしいと思っています。ケアをする人は、その思いに応えてください。

【認知症の方の生活を知る】

認知症の方を理解するために、その方の生活を知ることも大切です。
例えば、昔からよく外へお出かけになったり、散歩されていたかどうかを知り、もしお好きだったようであれば、それを続けることは、その方にとって良いことになります。

さきほど、認知症の人は安心できる場所を探していると述べました。
以前大切にしていたものが分からなくなり、混乱してしまっている認知症の方の過去の生活の歴史についてケアをする人が知っていると、「このことを覚えていますか」と話しかけ、安心感を覚えてもらうことができるのです。

【スタッフからオーサ先生への質問】

Q:認知症の方にとって、テーブルクロスの色などは、どんな色が良いですか?

A:季節や習慣などによります。季節を思い出すきっかけになる色を使うのはよいでしょう。また、週末には、違った色のクロスを使って、変化を出すのも良いと思います。

反対に一部に暗い色があるようなものの場合、暗い穴などを連想して、不安になってしまうこともあります。

食事をとる場所では、お料理がよりおいしそうに見える色を使いましょう。「歳をとっているけれど、こんなに立派なものを出してもらっている」と、大切にされているという気持ちが生まれます。

>>次号へ続く





認知症ケアセミナー(6) 2006.12.11更新

【自立を支える9つの視点(1)】

認知症の方を支えるためには、ケアをする人が相手の方の生活歴などをよく知り、自立を支えるための関係をつくることが大切です。今回から3回にわたって、自立を支えるための9つの視点についてご紹介します。

1.これからご紹介する(1)から(9)について、番号順でなくても良いので、それぞれの項目ごとに、その内容がケアをする相手の方に当てはまるかどうかを、その方の日常生活のご様子から確かめてみましょう。

2.(1)〜(9)について確かめていくと、認知症の方の自立を支えるための目安が見えてきます。認知症の方を支える周りの人が、あまり大きな目標を立ててしまうと、認知症の方ご本人が自信を失ってしまうことがあります。ときどき目安を確認しながら、柔軟に目標を立てていきましょう。

(1)認知症の方の思考と記憶を知る

□少し前にあったことを覚えている。
□これから行うことを覚えられる。
(例:「これから出かけるので、上着を着ていきましょう」という呼びかけが覚えられる。)
□昔の記憶を思い出したり、経験を活かすことができる。
□新しいことを学ぶことができる。

*思考と記憶について・・・認知症の方が話される言葉に耳を傾けてみましょう。正しい言葉を使っておられるでしょうか、確かめてみましょう。
(例)「痛み」に対して「痛い」と言える。/周囲の人の話を理解している。/読み、書き、計算ができる。/集中力がある。/同時にいくつかのことができる。/何かを始めたときに最後までやりとげられる。又は途中で終わってしまう。(更衣のときなど)/同じテーマでずっと話すことができる。又は途中で他のテーマに変わってしまう。/はっきりとしたメッセージ以外にも抽象的なこと(時間、愛など)がわかる。/話のポイントをつかめている。(冗談なのか、まじめな話なのか、など)

(2)周囲との関係の理解について

□今年は何年かが分かる。
□いまの季節が分かる。
□自分の年齢が分かる。そしてそれに相応しい行動ができる。
□道具が何に役立つかということと、その使い方が分かる。
□家族やケアする人たち等、周りにいる人達を覚えている。
□道を歩いている時に迷わない。

>>次号へ続く





認知症ケアセミナー(7) 2006.12.25更新

【自立を支える9つの視点(2)】

前回に引き続き、自立を支えるための9つの視点についてご説明していきます。
認知症の方を支えるためには、ケアをする人が相手の方の生活歴などをよく知り、自立を支えるための関係をつくることが大切です。日常生活のご様子から確かめてみましょう。

(3)気持ちのコントロールについて

□自分の感情のコントロールができる。
 ◆簡単に怒ってしまったり、悲しくなったりしない。
 ◆セクシャルな面(他の人の体を触る、等)をコントロールできる。
□不満のコントロールができる。
 ◆自分の要求に対する対応を待つことができる。
 ◆怒った時に自分をコントロールできる。

(4)判断

□本人が何かしてしまった時に、その結果についてわかっている。
(例)誰かにぶつかってしまった時に、その相手が痛い思いをしたということがわかる。
□失敗から学ぶことができる。
□危ないかどうか判断できる。
□状況を判断できる。
(例)暴言は言ってはいけない等の判断ができる。

(5)他者との関係

□1人でいることができる。
 ◆他の人に頼らないでも良い。
 ◆他の人といる時に、くっついていくというようなことがない。
□他の人の気持ちに理解がある。
□他の人の会話に寛容である。(会話の中で簡単に怒ったり悲しくなったりしない、等)

(6)自己能力

□更衣や食事ができる。
□(確認)どのような場面で一人で何かを行なうことができて、
 どのような場面では介助を必要とするか。
□やる気や意欲がある。
□自分から行動を始める(介護する人などに言われてから始めるのではない)。
□何かを始めた時に順番が合っている。
 例えば、書道の時に、筆を使って文字を書くことができる。
□論理的に考えることができる。

(7)五感能力

□光や音に敏感である。
□色々な印象を整理することができる。
□周りの人が走り回ったり、周囲の音がうるさいなど刺激が多い時も、
 ただ座りこんでしまったり、歩き回ったりしない。
□痛みや匂い、味を感じる能力がある。

>>次号へ続く
※今回で、本年度は最終となります。
2007年は1月15日(月)から連載を再開いたします。





認知症ケアセミナー(8) 2007.01.15更新

【自立を支える9つの視点(3)】

「自立を支えるための9つの視点」は、今回で最終回です。認知症の方を支えるために、3回にわたってご紹介してきた「9つの視点」を媒介にして、「健康で、毎日を楽しく過ごしてほしい」という願いに近づきたいと思います。

(8)困難なこと、不安から自分を守る

□不安なときの行動、対応について。
□難しいことに出会ったときの断り方。
(例)理由をつけて断ることができる。他の人に頼むことができる。「できない」と言葉に出して言うことができる。

(9)自信

□大切にしていることがある。又は、自分にとって大切なことを、自分で決める ことができる。自分のやりたいことができる。
□ケアをする人と、お互いに尊敬できる関係にある。
□日常生活の中に、安心できる環境がある。
(例)身近な更衣介助。手伝いすぎてしまうと、ケアされる人は、自分が行なっていることが認めてもらえないのだ、と思ってしまいます。ケアをする人の「手伝いたい」「助けたい」気持ちと、ケアされる人の意識、やる気を確かめることが大切です。

〈まとめ−−−9つの視点を振り返って〉

これまでにご紹介した9つの視点を通して、認知症の方の自立を支えるための目安が見えてくるでしょう。(すすめ方は1〜9の番号順でなくても構いません。)
認知症の方を支える周りの人が、あまり大きな目標を立ててしまうと、ご本人が自信を失ってしまうことがあります。ときどき目安を確認しながら、柔軟に目標を立てていきましょう。

例えば、「(1) 思考と記憶」については、認知症の方が昔の記憶を思い出すことが難しい場合、支え方の一つとして、「ヒントを差し出す」という対応があります。家族の写真を見てもらうことも良いでしょう。その時、家族が撮影した日付やその時の説明を添えるとより良いでしょう。質問をするのではなく、メッセージを伝えてみるのです。そのようなことを続けながら、対応を始めた頃と後とを見直し、目標を立てることができます。

スウェーデンでは、ケアを専門とするスタッフが認知症の方の自立を支える為に、「まるで探偵のように(認知症の方を)知る努力が必要だ」と、言うことがあります。
認知症の方の生きていく力を信頼し、維持し、自立を支えるために、「9つの視点」を媒介にしてケアをする相手の方のことをより深く知り、「健康で、毎日楽しく過ごしてほしい」という大きな目標に近づいていただきたいと思います。

>>認知症ケアセミナー講師オーサ・クラムボーン先生のお話は、今回でひとまず終わります。舞浜倶楽部では、スウェーデン福祉研究所と連携して、今年もオーサ先生を秋から1年間招聘する予定です。今後のセミナーにご期待ください。
 次回からは、新浦安発介護ニュースでご紹介しました「タクティールケア」等についてご紹介していきます。





タクティールケア(1) 2007.01.29更新

《スウェーデン「シルヴィアホーム*1」の研修では、認知症の症状緩和のためにさまざまな手法を学びます。シルヴィアホームの教育の中心は、個人としての認知症高齢者を支えること、認知症高齢者の感覚に共感すること、認知症高齢者の残存する力を最大限活かすということです。そして高齢者の気持ちをやわらげるツールとしてタクティールケアを実践します。タクティールケアは、重度の認知症高齢者と共に時を過ごす方法でもあります。》
(『Teaching for Learning and Learning for Teaching in Care of Elderly with Dementia at Silviahemmet』Margareta Skog, Norstedts Trycheri AB, 2000)

(*1)シルヴィアホームは、スウェーデン・シルヴィア王妃を会長とする、認知症緩和ケアの哲学に基づいた、世界でも先駆的なデイケアセンター及び研究・研修センターです。また、スウェーデン国内のいくつかの大学と認知症緩和ケアについての共同研究を行っています。ホームは明るい光に満ち、家庭の雰囲気を醸し出しており、認知症高齢者のリハビリの場にもなっています。

舞浜倶楽部ではスウェーデンの介護・福祉をモデルにすえ、さまざまな専門家を招いてケアの現場で共に過ごしてもらい、新しい認知症ケアに取り組んでいます。今回ご紹介する「タクティールケア」は、スウェーデンにおいて理論化された、認知症緩和ケアの独特の療法です。

タクティールケアは、高齢者とケアスタッフ両方にとってプラスの効果が見られるため、1995年にスウェーデン国立保健局が行ったプロジェクトにおいて、バルブロ・ベック=フリース教授*2は週5日、1ヶ月間かけて、ナーシング・ホームでの認知症高齢者のグループにタクティールケアを実施しました。この時のたいへん効果的な結果により、タクティールケアはスウェーデンで広く利用されるようになりました。スウェーデンの高齢者ケアにおいて切り札的な療法とも言われています。

タクティールという言葉は、「触れる」ということを意味するラテン語の単語「タクティリス(Taktilis)」からきています。
その言葉の由来通り、手のひらで相手の手足や背中を柔らかく包み込むように触れていきます。力を入れて「体を押す」というより、むしろ、やさしく「撫でる」感覚で行ないます。

これにより〈安心と信頼のホルモン〉と呼ばれる「オキシトン」が分泌され、体の痛みを緩和したり、興奮状態や不安感をおさえ、心を落ち着かせたりすることができるのです。

高齢者ケアでは、「ケアをする人」と「ケアをされる人」が、お互いに相手を信頼できる関係であることが大切です。タクティールケアは、体を揉みほぐすことよりも、むしろ皮膚と皮膚が触れあうことを通して、「ケアをする人」と「ケアをされる人」の間の互いへの信頼や尊敬の気持ちを引き出すことを目的に、個人の感性を大切にして行われます。それにより双方にとって、よい効果がみられるのです。

舞浜倶楽部では、スタッフ教育と同時に、地域に向けてタクティールケアのオープンセミナーを行ないました。セミナーは、スウェーデンから来日されているタクティールケアのスペシャリスト、ウオレ・オドゥンラミ先生による認知症ケアについてのお話からはじまり、タクティールケアの解説やその効果の紹介の後、希望された方に実際にタクティールを体験していただきました。

講演後、体験によって感じられた「心地よさ」「ふれあいの大切さ」「安心感」を、認知症の方に限らず、家族やケアしてあげたい方とのコミュニケーションに活かしたいという声が寄せられました。

(*2)バルブロ・ベック=フリース教授は、高齢者医療の専門医です。1996年よりシルヴィアホームの取締役員として指導・教育を担当。スウェーデン政府の専門アドバイザーとしても活躍しています。

タクティールを行なうウオレ先生/タクティールケア
左から:タクティールを行うウオレ先生/タクティールケア





タクティールケア(2) 2007.02.13更新

【手のタクティールケア】

タクティールケアは、静かな場所で、お互いに落ち着いた雰囲気の中で行います。

手のタクティールケアを見てみましょう。(*写真参照)タクティールケアは、やわらかい動作、そしてしっかりとした動きで行います。一旦タクティールケアを始めたら、相手の方の手と自分の手が、最後まで、いつも触れているようにします。

オーガニック・オイルを使い、手全体に広がるように上下で包み込み、撫でます。手の甲、手の甲の骨と骨の間、指の上下・内外に対して軽く押したり、包み込むという動作も行います。また、手のひらや手首に対してもケアを行います。
タクティールケアを行っている間、相手の方のもう片方の手はタオルなどで包んで暖めておき、片方の手が済んだら、もう片方の手も行います。

手の他にも、背中や足、腹部、顔、頭などのタクティールケアがあります。

例えば、背中のタクティールケアは、背中の中心から外側に両手を滑らせながら円を描いたり、放射状に滑らせたり、腰から首までの間でハート形を順々に描いたり、交互に滑らせたりという動作を行います。ひとつひとつの動作は速すぎず、遅すぎず、ゆったりとしたペースで行います。


タクティールケア
左から:手のタクティールケア1/手のタクティールケア2/手のタクティールケア3


【「触れる」というケア】

タクティールケアは「やさしく触れる」「接触する」という動作が基本です。そうすることで、穏やかで安心した気持ちが、認知症の周辺症状である痛みや不安、恐怖などをやわらげます。

人が手と手を取り合うときに、お互いの心には何か通うものが生まれます。身体の接触は、もっとも古いコミュニケーションのひとつであり、それは信頼や安心の証といえるものです。つまり、タクティールケアはコミュニケーションの手段でもあるのです。

身体の接触には、5つ種類が考えられます。ひとつは、肩に手を置く、頬を撫でるなどの「慰め」。2つ目は、肩を組んで応援するといった「連帯」。3つ目は、介護の現場で多く使われる移乗や、トイレ介助などの「手段」としての接触。4つ目は、知覚を刺激するなどの「見当」。最後に、日常的な握手などの「社会的」な接触があげられます。

いずれの場合も、接触するためには相手の近くにいる必要があります。近くにいるということは、親密さとつながります。親密さは、身体的接触がもたらす慰めや安心、信頼につながっています。良い意味での接触は心地よさや幸福感を人に与え、満足感、信頼、安心感を生み出します。

それでは、ケアすることと「触れること」「接触」とはどのような関係にあるのでしょう。ただ撫でるだけでも、安心と信頼の小さなきっかけになります。しかし、全ての人が接触を受け入れたがっているとはいえませんし、全ての人が接触を与えたがっているともいえないでしょう。

ケアの場面での自然な接触は、動作を手伝うことや髪をとくこと、更衣の介助などです。このような場合は、接触を受け入れやすいでしょう。しかし、意識して行われる接触は、受け入れやすいとはいえません。

その点においては、タクティールケアも、意識して行われる接触といえます。ですから、知り合ってすぐの方に、急にタクティールケアは出来ません。タクティールケアに至るまでには、お互いが知り合える時間が必要です。また、相手をよく知るために、話を傾聴する姿勢をお互いが持つことが大切です。

タクティールケアでは、相手を見つめること、理解すること、その存在を認めるということを重視します。それがケアされる人の安心感につながります。逆に相手に認められない関係は、自分を無意味な存在と感じさせ、不安を生じることになります。

タクティールケアの目的は、「安心できる手に自分を委ねている」という関係をつくることともいえるでしょう。





タクティールケア(3) 2007.02.26更新

タクティールケアは、スウェーデンにおいて理論化された、認知症緩和ケアの独特の療法です。スウェーデンでは約4万人がタクティールケアをマスターし、家庭や学校、医療機関、自治体などで広く実践しています。

【タクティールケアの効果】

「優しく包まれ、とても安心した気持ちになった」
「子供のころに感じた母親の手を思い出した」
「右半身に麻痺がある母にしてあげたい」
「子供にも良いかもしれない」
これらは、先日、舞浜倶楽部で行われたタクティールケア・セミナーに寄せられた感想です。

また、タクティールケアの実践コースで学んだ舞浜倶楽部のスタッフが、実際にタクティールケアをご入居者に行うようになってからは、さまざまな効果が聞かれるようになりました。
「普段、言葉数の少ない方とお話しがはずんだ」
「行っている間は、痛みを訴えられる言葉が少なかった」
「夜中に一度も目を覚ますことなく、ぐっすり朝までやすまれていた」

舞浜倶楽部に限らず、他の高齢者施設でも報告されているタクティールケアの効果は、次のようなものがあげられます。
・関係の構築のツールとして活用することによる、コミュニケーション能力の向上。
・認知症緩和ケアのツールとして、ストレスの軽減や攻撃性・自虐性の減少、徘徊の減少と安眠効果などの認知症の周辺症状の緩和。
・認知症高齢者自身の身体認識の向上。

さらに、認知症のみならず、一般の方々のストレス軽減(リラクゼーション効果)や胃、腸管機能の活性化、安眠効果や鎮痛効果(たとえば癌のターミナルケアへの活用)、リュウマチや糖尿病(インスリン投与の減少)なども報告されています。

このようなことから、配偶者や家族がケアにたずさわっている場合、ケアされている人だけではなく、ケアを行っている家族にもタクティールケアは効果をもたらします。
タクティールケアは、タクティールケアを行っている人自身にも、ケアすることの意味と目的に対する意識を高め、満足感や自分自身に対する気づきを与えることにもつながるとされています。

スウェーデンの保育所では、大人と子供が互いを尊重する場をつくり、子供たちの安心と信頼の環境を提供するために、午睡前などにタクティールケアを行っている例もあります。
(なお、妊婦、筋ジストロフィーの方へのタクティールケアは、行ってはいけないことになっています。)

【タクティールケアの理論と科学的証明】

タクティールケアでは、オキシトシンが脳下垂体から分泌されることで、体全体に効果が広がり、鎮静効果があるとされています。それにより安心と信頼の感情が引き起こされ、不安感や恐怖感を緩和し、穏やかな気分になることができるのです。

また、痛みを脳に伝える脊髄には、刺激によって開くゲートがあり、このゲートを閉じることで痛みの伝達が遮断されるというゲートコントロールという考え方があります。タクティールケアは、このゲートコントロール効果を通して、痛みを緩和する作用があるとされています。つまり、タクティールケアでは、皮膚の接触受容体が活性化され、知覚神経を介して痛みの信号がより早く脳に送られることで、痛みが抑制されるのです。さらに、心理的な不安と痛みの関係が断ち切られることにより、痛みの抑制に繋がると考えられています。

スウェーデンでは国家審議委員会(SBU-Alert)がタクティールケアの科学的証明について検討を重ねています。
国際的には、臨床試験の中でももっとも信頼性が高い研究を数多く集め、総合的に解析する手法により科学的根拠を示すために1992年にイギリスで立ち上げられたコクラン共同計画において、信頼できる科学的根拠について整理・蓄積が進められています。
タクティールケアの実践研究においては、ストックホルムにあるカロリンスカ研究所で、ベーリット・クルンファルク女史が多くの研究を発表しています。





タクティールケア(4) 2007.03.12更新

舞浜倶楽部では、2006年2月から日本スウェーデン福祉研究所(JSCI)を拠点に活動するオイエウレ(ウオレ)・オドゥンラミ先生をお招きし、ケアスタッフへの「認知症緩和ケアの理念」と「タクティールケア」の教育をお願いしています。ウオレ先生は、シルヴィアホーム*の教育プログラムを修了したシルヴィアシスター34名の内の一人です。今回は、「認知症緩和ケア」や「タクティールケア」について、ウオレ先生のお話をまとめてみました。

【高齢者と共に】

イギリス生まれ、ナイジェリア育ちのウオレ先生は、17歳の時に交換留学生としてスウェーデンへ留学。リンショーピン大学で政治学、神学を学ばれました。ウオレ先生にとっての介護の経験は、学生時代にアルバイトとして関わったことから始まりました。

「高齢者と共に過ごすことは、子供の頃からとても自然なことでした。」「両親の故郷アフリカでは、高齢者の方は、私たちが傾聴するべき存在であると考えられています。」とウオレ先生は言います。

「シルヴィアシスターは、認知症に関する理論と実践にもとづいて教育します。知識を持っていると同時に、常にケアの現場という現実に向き合っています。」

【タクティールケア】

シルヴィアシスターの教育研修活動のなかで、「タクティールケア」の意味をウオレ先生は、「タクティールケアは言葉でのコミュニケーションが及ばない時に使うことができる方法」と説明されています。

さらに、ウオレ先生は、「タクティールケア」と「認知症状緩和ケア」について次のようなお話をされています。「(タクティールケアの)やわらかい接触は、心地よさを提供し、大切にされているという気持ちをもたらします。不安を感じている認知症の方を穏やかにします。それによってQuality of Life (生活の質)を高めることができます。」「具体的な例では、タクティールケアによって身体の硬直をやわらかくすることができるので、拘縮のある高齢者に服を着てもらいやすくなります。」

「(認知症の方を中心にした)良いチームワークをどのように築くか、家族と患者を分けて考えることの重要性や、家族とのコンタクトなどが認知症緩和ケアにおいて重要なポイントです。」

「タクティールケアは、高齢者本人だけではなく、不安と絶望感を抱いている家族にとっても良い効果をもたらします。以前、タクティールケアを行った家族は、それにより心身のリフレッシュができ、彼らの抱える困難な問題について話すことができるようになりました。タクティールケアが、家族との良い関係を築く大きな助けになったのです」

「日本の認知症ケアの現場で努力している人たちとディスカッションすることで、認知症に対する具体的で実践的な理解を深めるための支援ができるでしょう。」

参考資料:スウェーデン福祉研究所(JSCI)機関誌『MIMER(ミーメル)Vol.1』(2006)
*シルヴィアホーム:世界でも先駆的なスウェーデンのデイケアセンター/研究・研修センター。詳しくはWEBセミナー13参照

ウオレ先生 ウオレ先生





スウェーデンについて 2007.03.26更新

ケアスクエア・WEBセミナーでは、タクティールケアやシルヴィアホームなどを生んだ、社会福祉の先進国スウェーデンの福祉システムを、福祉のモデルとしてご紹介してきました。今回は、グスタフ国王とシルヴィア王妃の来日にあわせ、スウェーデンの情報をまとめてみました。

【スウェーデン国王王妃両陛下の日本公式訪問】

今週は、スウェーデン王国カール16世グスタフ国王陛下とシルヴィア王妃陛下が、日本政府の招待により、両国間の親善を目的として3月26日から29日まで、日本を公式訪問されます。1980年に初めて公式訪問されており、今回で2回目です。

スウェーデン政府からは、カール・ビルト外務大臣とヨーラン・ヘグルンド社会保健大臣が政府代表として来日。また、産業機関の代表派遣団やヘルスケアに焦点を当てた代表団も同時に訪日します。

来日中は、両国にとって重要な課題(環境・エネルギー問題、介護におけるIT技術、認知症問題、バイオ・メディカルテクノロジー、交通安全や子供の権利など)について様々なシンポジウム並びにプレゼンテーションが開催されます。また、長崎市原爆ドームやスウェーデン人植物学者カール・フォン・リンネの展示や文化機関への訪問なども予定されています。

【スウェーデン王室】

スウェーデンの君主制と王室は、国の象徴的・儀礼的な役割のみを果たしています。このことは、王室が意義を持たなかったということを意味するものではなく、君主制と王室に対する国民の支持がとても強いことの表れです。

カール16世グスタフ国王は、ナポレオンの部下だったバーナドット元帥が、カール14世ヨハンという名で王位に就いた1818年以来、王位継承しているバーナドット家の血をひいています。

また、世界でも先駆的なデイケアセンター、認知症状緩和ケアの研究・研修センターとして、認知症ケアの向上を牽引するスウェーデン・シルヴィアホームを設立したシルヴィア王妃は、旧姓をソメラトといい、ドイツ人実業家の父とブラジル人の母の間に生まれました。

国王夫妻には、三人の子どもがいます。長女のヴィクトリア皇太子、長男カール・フィリップ王子、次女マデレーン王女です。スウェーデンでは、1980年に法律が改正され、第一子のヴィクトリア王女が王位継承権をもつ皇太子となりました。ヨーロッパでただ一人の女性の王位継承者です。

[スウェーデンの基本情報]

面積

450,000平方キロメートル
(森林:53% 山地:17% 耕地:8% 湖沼と河川:9%)

首都 ストックホルム
公用語

スウェーデン語

人口 9,110,972人(2006年11月30日時点)
高齢者人口 154万人
高齢化率

17.2%

後期高齢者人口 79万人
後期高齢化率 8.9%
平均寿命 男性77.9歳 女性82.4歳
国家の形態 立憲君主制・議会民主制
国王 カール16世グスタフ
首相 フレドリック・ラインフェルト
議会  一院制349議席
EU加盟年 1995年
失業率 4.6%(2006年12月時点)
教育体制 6-3-3制(義務教育年度:7〜16歳 計9年)
宗教 人口の8割がスウェーデンの福音ルーテル教会※に所属(※プロテスタントの一派)



スウェーデンの地図

参考資料:『在日スウェーデン大使館ホームページ』2006年3月24日
参考文献:『これぞ われら スウェーデン人』著者:クラース・ブリットン スウェーデン文化交流協会
参考資料:『第2回介護施設等の在り方に関する委員会資料』 厚生労働省 2006年
「高齢者人口」「高齢化率」「後期高齢者人口」「後期高齢化率」「平均寿命」は2003年現在。




福祉国家スウェーデンの歩みと日本 2007.04.10更新

【高齢化社会から高齢社会へ】

 一般に、高齢化率が7%を超えた社会を「高齢化社会」、14%を超えた社会を「高齢社会」と呼んでいます。

スウェーデンでは、1890年から1972年まで82年をかけて、高齢化社会から高齢社会に移行しました。一方、日本は1970年から1994年まで24年という世界に類を見ないスピードで高齢社会になり、さらに2000年に、日本は高齢化率において、スウェーデンを抜いて超高齢社会となったのです。

【スウェーデンの歩みと日本】

スウェーデンの民主主義、連帯、安全という理念や、人格の尊厳にもとづく、自己決定、継続性、ノーマライゼーション、近接性(地域密着)、選択の自由などの考え方は、日本の高齢者ケアの現場でもよく耳にするようになってきました。

また、サービスやケアの質の向上や効率化、優先課題の設定、高齢者と家族のQOL(生活の質)の向上という課題への取り組みは、日本に新しいモデルを提供しています。

福祉先進国として知られるスウェーデンですが、80年余りをかけて高齢化が進行する中で、過去にさまざまな時代がありました。例えば1952年にスウェーデンで出版され、ベストセラーになった『老年期』あるいは『老いること』と訳されるノーベル文学賞受賞作家ロー=ヨハンソンのルポルタージュでは、「入居者の強制入所」「権威主義的ケアと過干渉」「傷つけられる尊厳」「生きがいの喪失」「プライバシーの侵害」など、当時の老人ホームの状況が浮き彫りにされました。この後、施設ケアに置かれていた高齢者福祉の重心が、ホームヘルプ・サービスへと移行していくことになります。

また、1997年には、サラという介護職員が、劣悪な介護によって床ずれや壊疽に苦しむ施設の入居者の存在を世間に訴えたことにはじまり、介護の現場の職員や家族による告発をうけて、ケア・サービスをうける高齢者や障害者の権利擁護と関係者の監視・届出義務が盛り込まれ、法律(社会サービス法)が改正されたこともありました。

スウェーデンでは、過去さまざまな時代を経て、科学的かつ実践的に、現状分析と対策の構築、改革、改革の評価と新たな提案という体系的なアプローチを繰り返し、現在の福祉社会を形成してきました。

日本の私たちは、これまでのスウェーデンの取り組みに学ぶとともに、今後ますます高齢化が進行する中で、スウェーデンと日本がヒューマニティ(人間性)の交流を図ることによって、共に高齢社会の可能性を見出して行くことが大切であると考えます。


[スウェーデンと日本の高齢化の状況]
  スウェーデン 日本
面積 449,964平方キロメートル 378,835平方キロメートル
総人口 896万人 12,765万人
高齢者人口 154万人 2,421万人
高齢化率 17.2% 19.0%
後期高齢者人口 79万人 1,043万人
後期高齢化率 8.9% 8.2%
平均寿命 男性77.9歳 女性82.4歳 男性78.4歳 女性85.3歳
国民負担率 潜在的国民負担率71.1% 潜在的国民負担率43.9%
(内訳) ・社会保障負担率21.0%
・租税負担率49.9%
・財政赤字対国民所得比0.1%
・社会保障負担率14.7%
・租税負担率23.0%
・財政赤字対国民所得比6.1%
在宅死亡率 51.0% 13.4%

 

参考資料:『スウェーデンの高齢者福祉』 P・ブルメー&P・ヨンソン著 石原俊時 訳 2005年
参考資料:『高齢者ケアシステムの発展の歴史-日本とスウェーデン-』人口高齢化の進展と高齢者対策の展開に関する研究委員会 編 2001年
参考資料:『第2回介護施設等の在り方に関する委員会資料』 厚生労働省 2006年
総人口」「高齢者人口」「高齢化率」「後期高齢者人口」「後期高齢化率」「平均寿命」は、両国ともに2003年現在。
国民負担率:潜在的国民負担率=国民負担率(租税負担率と社会保障負担率の合計)+財政赤字対国民所得比
「在宅」の定義は、日本は「自宅」、スウェーデンは「自宅」及び「ケア付き高齢者住宅」




 『バニラソースの家 ―― 年をとるってどんなこと?』 2007.04.23更新

「あなた、どこの子?」「なにいってんの。バッレだよ!」
アルツハイマー病のエミリアおばあさんと孫のバッレくんはとても仲良し。今回は、楽しく暮らすふたりが登場する絵本『バニラソースの家 ―― 年をとるってどんなこと? 』をご紹介します。


年をとって、体のよわいお年寄りのための「バニラソースの家」で暮らすエミリアおばあさん。
いろいろな症状をもたらすアルツハイマー病のせいで、おばあさんがおかしな振る舞いをしてしまっても、バッレくんとおばあさんの心の絆は固く結ばれていて、お互いへの思いやりはいつまでも続きます。

「コケモモジュース」を「ツケモノジュース」と言いまちがうおばあさんを見て、大きなため息をつくおとうさん。でも、目を見て、ゆっくりはっきり話をすればおばあさんとコミュニケーションをとることができることをバッレくんは知っています。
かわいがっているぬいぐるみを見失ってしまったおばあさんのことを大きな声で笑うお父さんに、バッレくんは「年をとればおとうさんも、バニラソースの家にいくのに。」と思います。

じゅうたんの色がおばあさんの気持ちにもたらす影響についてのお話。突然昔の家に帰りたくなったおばあさんと、そのときバッレくんがとった行動。おばあさんの昨日のような昔の話。言いまちがいやもの忘れ。心に残る思い出と、現在を生きること。
子どものための読みやすい絵本ですが、大人が読んでも味わい深い印象を受けることができます。また、同時にアルツハイマー病への理解についての、大きなヒントも読み取ることが出来ます。

アルツハイマー病という難しい病気でも、病気について知らないでいることや知ろうとしないでいることを越えて、相手のために知ろうとする勇気と、相手の方と共に明日への希望をもって生きることの大切さを、バッレくんが教えてくれます。

「この本を読んでいただくことで、アルツハイマー病などの認知症になるとどうなるかを理解してもらい、そういう病気にかかってしまったおじいさん、おばあさんを助けてあげるにはどうしたらよいかを、みなさんに知ってもらえることを願っています。」
序文には、シルビア・スウェーデン王妃の言葉が添えられています。
(本の売り上げの一部は、アルツハイマー病の協会に寄付されるそうです。)


バニラソースの家 『バニラソースの家 ―― 年をとるってどんなこと?』(ブリット・ペルッツィ、アン・クリスティーン・ヤーンベリ 作 モーア・ホッフ 絵 森信嘉 訳 2006年 今人舎)



介護保険制度について(1)改革の背景と「目的規定の改正」 2007.05.14更新

現在、日本は、世界に類を見ないスピードで高齢化が進んでいます。平成12年4月にスタートした介護保険制度のサービス利用者は、当初の約150万人から、平成17年4月には約330万人と120%も増加しました。

平成27年(2015年)には第1次ベビーブーム世代が65歳を迎えます。
平成14年(2002年)に約150万人だった認知症の高齢者は、平成27年(2015年)には250万人に、平成37年(2025年)には320万人に増加すると予想されています。
一人暮らしの高齢者は、平成12年(2000年)に約300万世帯でしたが、平成27年(2015年)には560万世帯に、平成37年(2025年)には680万世帯となると推測されています。

このような超高齢社会の到来を前に、平成18年の介護保険制度改革では新たなサービス体系が示されました。
その中のひとつとして、認知症の方や一人暮らしの高齢者が、できる限り住み慣れた地域で生活を続けられるようにすることを目的とした、「地域密着型サービス」が設けられました。

「地域密着型サービス」には、例えば「小規模多機能型居宅介護サービス」があります。
このサービスでは、利用するご本人の自宅とサービスを提供する事業所が生活の場所になります。事業所への通いを中心として、介護を必要とする利用者の状態や希望に応じて、自宅への訪問や事業所への宿泊を組み合わせることで、生活上の介護の必要性が高まっても自宅での生活を続けることを可能にする支援です。

今回、新しく設定されたこのようなサービスの根本的な考え方は、相互扶助の理念に基づく介護保険法の目的規定の改正に示されています。
「第一条 この法律は、加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等により要介護状態となり、入浴、排せつ、食事等の介護、機能訓練並びに看護及び療養上の管理その他の医療を要する者等について、これらの者が尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、必要な保健医療サービス及び福祉サービスに係る給付を行うため、国民の共同連帯の理念に基づき介護保険制度を設け、その行う保険給付等に関して必要な事項を定め、もって国民の保健医療の向上及び福祉の増進を図ることを目的とする。」

次回は、「介護保険制度について(2) 地域密着型サービス」をご紹介します。





 介護保険制度について(2) 地域密着型サービス その1 2007.05.28更新

平成18年の介護保険制度改革で新たなサービス体系の中のひとつとして、認知症の高齢者や一人暮らしの高齢者ができる限り住み慣れた地域で尊厳の保たれた生活を続けることができるよう支援するために「地域密着型サービス」が設けられました。

「地域密着型サービス」のしくみを、浦安市を例にとって説明します。
・浦安市の地域密着型サービスは、浦安市の住民のみが利用できます。
 (注:浦安市の同意を得た他の市町村が指定すれば、他の市町村の住民も利用可能)
・サービスの指定(認可)権限は、浦安市にあります。指定、指定基準、報酬設定には、地域住民、高齢者、経営者、保健・福祉・医療関係者が関わります。
・浦安市の実情に応じた指定基準、介護報酬を設定。

このような地域密着型サービスから、高齢者の在宅での生活を支援する「小規模多機能型居宅介護サービス」について見てみましょう。

「小規模多機能型居宅介護サービス」
・利用するご本人の自宅と事業所を生活の場所とする、このサービスの登録定員は25名です。
・事業の中心となる「通い」(いわゆるデイサービス、通所介護)の定員は、15名です。
・様態や希望による「泊まり」(いわゆるショートステイ、短期入所)の定員は9名で、「通い」を利用している高齢者に限られます。
・「通い」の利用者には、日中3人に対して1人の職員が対応し、これとは別に様態や希望による「訪問」に1名があたります。
・夜間は、「泊まり」と「訪問」に2人が対応します。
・介護支援専門員(ケアマネジャー)を1人配置します。
・地域に開かれた運営とするため、地域関係者が運営状況を協議・評価する「運営推進会議」が設置されます。
・サービス水準・職員の資質の確保のため、管理者等の研修、外部評価、情報開示が行われます。

柔軟な業務を行い、人員配置を固定せず、馴染みの職員によって介護を受けるというサービスの連続性が確保されていることが「小規模多機能型居宅介護サービス」の特色です。介護を要する利用者の状態や希望に応じて対応することで、生活上の介護の必要性が高まっても自宅での生活を続けることを可能にします。

事業者というプロサイドが、たとえば認知症の方に対して身体介護や様々な緩和ケアを行う。家族の方はご自身の休息も図りながら、より心の繋がり合いの部分を大切にしてもらうということが可能となります。認知症の方に対して徹底的にサポートする場合、事業者というプロサイドがしっかり引き受ける場所がとても必要なのです。

平成18年12月末現在、全国で370カ所がサービスを行っています。

参考資料:『介護保険制度改革の概要 -介護保険法改正と介護報酬改定-』 厚生労働省 2005年
参考資料:『最新 図解でわかる 介護保険のしくみ』服部万里子 2007年
参考資料:『ソーシャル・サポート 第1巻 -特集 地域ケアの展開-』NPO法人舞浜ソーシャル・サポート 2007年

次回は、「介護保険制度について(3) 地域密着型サービス その2」をご紹介します。




 介護保険制度について(3) 地域密着型サービス その2 2007.06.11更新

今回は「地域密着型サービス」の中から、認知症の方の在宅での生活を支援する「地域密着型認知症対応型デイサービス(通所介護)」をご紹介します。

「認知症対応型デイサービス」は、ご自宅にお住まいのケアを必要とされる方で、脳血管の病気やアルツハイマー病などによる脳の組織などの変化によって、日常生活に支障が生じるくらいに記憶や認知機能が低下した認知症の方が利用できる、専用のケアサービスです。
認知症の方は、ご家族やデイサービスのケアスタッフの送迎でご自宅から通い、入浴、排せつ、食事等の日常生活上のケアサービスの利用はもとより、ケアスタッフや同じ認知症の方々と交流することができます。また、機能訓練も受けることができます。

これまでの連載でご紹介した認知症緩和ケアを考慮しながら、地域の方々からの理解や参加についても視野に入れて、最終的には地域ケアの実現を図ることが望まれます。

このような認知症対応型デイサービスに既に取り組んでいる事業者の「ケア方針」を一例として引用してみましょう。

・認知症の方の能力を発見し、引き出し、生活の中で生かせるように努めます。「手は出しすぎず、目は離さず」が介護の基本で、自立の気持ちを大切にします。

・筋力低下・認知症の進行・廃用症候群は、ぼんやり過ごしたり、退屈だったり、刺激のないような状態から引き起こされます。認知症の方が「動くこと」「話すこと」「笑うこと」「感動すること」を意識して、ケアを行います。

・安心、安全、居心地のよい空間づくりに努めます。

・尊厳の念を持って、「その人らしさ」を尊重した対応を意識してケアにあたります。

・病気の早期発見と予防に努めます。

認知症の方へのデイサービスは、ケアするご家族自身が孤立することを防ぎ、身体面、精神面の負担を減らすことも目的のひとつとなります。
ご自宅でケアをされているご家族が、同じサービスを利用する他のご家族の方々を、「認知症の方のケア」という共通の目的をもつ日常のパートナーとして見出し、共に支えあい、励ましあうことができるような場所が、地域につくられることが望まれます。

参考資料:医療法人城南会 松城クリニック「ケアの基本方針」2007年
参考資料:『ソーシャル・サポート 第1巻 -特集 地域ケアの展開-』NPO法人舞浜ソーシャル・サポート 2007年
参考資料:『最新 図解でわかる 介護保険のしくみ』服部万里子 2007年
参考資料:『介護保険制度改革の概要 ?介護保険法改正と介護報酬改定?』 厚生労働省 2005年

補足:「認知症対応型デイサービス」は「地域密着型サービス」ですので、浦安市の場合、浦安市の住民のみが利用できます。また、サービスの指定(認可)は、浦安市が行います。指定、指定基準、報酬設定には、地域住民、高齢者、経営者、保健・福祉・医療関係者が関わります。





 介護保険制度について(4) 地域密着型サービス その3 2007.06.25更新

現在わが国では、医療サービス及び医療費の適正化を目標に、2012年3月末までに療養病床の削減が決定しています。
介護療養病床が13万床から0床に、医療病床25万床が15万床に、合計23万床を削減するという計画です。また、すでに約7万床の削減が決まっている精神病床にも、認知症高齢者、長期入院高齢者が多く入院されています。

療養としての病院から地域の生活の場へ戻される高齢者を支える場所として、厚生労働省は「老人保健施設」「有料老人ホーム」などとともに、「24時間往診を行う診療所」や「グループホーム」「在宅療養支援拠点」をあげています。

いわゆる訪問介護サービスに加えて、これまでにご紹介した地域密着型サービス「小規模多機能型居宅介護サービス」「認知症対応型デイサービス(通所介護)」等や、「認知症対応型共同生活介護(グループホーム)」によって支えることも、重要な方向性として考えられます。
高齢者の在宅生活を支えるためには、医療の「訪問・往診」や「通院」「デイケア」と連携しながら、進められることが併せて重要でしょう。

以前の連載の中で、認知症緩和ケアをデイサービスで実践し、スタッフ教育を実践現場に併設して行っているスウェーデンのシルビアホームをご紹介しました(2007年1月29日掲載分)。
スウェーデンの社会理念は、「人格の尊重」をはじめ「自己決定」「活性化」「安全性」「ノーマライゼイション」などとともに「近隣性」をうたっています。
その社会理念のもと、シルビアホームは、愛情を持って認知症の高齢者を包む緩和ケアの理念として、タクティールを含む「症状コントロール」、ケアにあたるスタッフの「チームワーク」、認知症高齢者の立場に立った「コミュニケーションと関係」、そして認知症高齢者の「家族支援」を挙げています。

高齢社会の先を行くスウェーデンにならい、日本の介護保険法がうたう「尊厳を維持した生活」を実現するためには、住み慣れた近隣地域の中で生活を続けられる環境づくりをすすめていくことが、今後ますます必要になるでしょう。
そして同時に、高齢者を支える家族自身も支援される環境づくりも考えていかなければなりません。

このような状況を踏まえ、これから高齢者の仲間入りをする団塊の世代をはじめ、次なる世代の生活が相互に支えられるためには、高齢社会を絶好の機会ととらえた新しい地域づくりの視点が必要な時代になっているといえるのではないでしょうか。


参考資料:『第2回介護施設等の在り方に関する委員会資料』 厚生労働省 2006年
参考資料:『ソーシャル・サポート 第1巻 -特集 地域ケアの展開-』NPO法人舞浜ソーシャル・サポート 2007年
参考資料:『認知症 予防と早期発見、対応のために』(講演) 医療法人城南会 松城クリニック 2007年




海外の取り組み「認知症ケアにおけるBGMと「歌うこと」の活用 2007.07.09更新

今回は、BGMをかけたり「歌を歌う」行為によって得られる、ケアする人と認知症の高齢者の相互作用に与えるポジティブな影響についてご紹介します。

認知症の高齢者の中には、多くの問題により、他者とのコミュニケーション能力が低下している方が見られます。問題には、失語(会話やその理解が困難)、失認(人や物の認識が困難)、失行(行動や意思表示を自発的に行う事が困難)が含まれます。さらに認知症が進行すると、徘徊、興奮、攻撃性や全体的な混乱が、伝達能力をかなり危うくします。

このような時に、BGMをかけることで、ケアをする人が言葉による説明を減らしても、認知症の方が状況を理解することが出来たというケースが報告されています。また、認知症の高齢者の心を鎮める効果が見られるという場合もあります。
さらに、ケアする時に、認知症の高齢者が好んでいる歌を歌うことで、話しかけや説明が明らかに少なくなるにもかかわらず、いま何が起こっていて、何を行うのかということ(たとえば更衣、整容、排泄など)を暗黙に理解することが出来たという、一見逆説的な効果が見られたということです。

この取り組みの特色は、認知症の高齢者の日常生活の普通の場面で行われること、そして特に音楽の訓練を受けていないスタッフや家族でも活用することが出来るという点です。

この取り組みの研究者、エヴァ・ヨッテルはスウェーデンのメーラルダーレン大学の教育者です。カロリンスカ研究所高齢者ケア研究所、ブレキンゲ工科大学において行われた研究をもとに「認知症の人と介護者のコミュニケーションにおける歌、BGMと音楽イベント」についての研究を2003年に出版しました。

1984年、エヴァ・ヨッテルは、高齢者のための長期ケア病棟で看護師として働いていました。病棟では、看護師長が、認知症の患者の記憶のトレーニングを担当していました。人気がある活動は、ダンスと歌でした。
エヴァ・ヨッテルは、朝食後に歌を歌うことで、患者がどのように楽しめるか知りたい、と看護師長に相談しました。

ヨッテルが食堂に座って歌い始めると、この歌が患者に劇的な影響を及ぼしました。患者の何人かは、すぐに部屋に入って来て、一緒に歌うことを望んだのです。さらに自分の部屋を出ようとしなかった他の患者が、歌のつどいに加わるために、スタッフに着替えを手伝って欲しいと頼みました。これが研究に着手する約20年前の出来事です。

エヴァ・ヨッテルは、この研究の結果、音楽の利用――ケアする人が歌うこと、お互いにBGMを聞くこと、ケアするときの音楽イベント――が、認知症の高齢者とケアする人の双方にポジティブな影響を及ぼすことを明らかにしました。
より具体的には、高齢者の能力――活力の利用、認識、言語、姿勢、知覚、認識、動作、課題実行、見当識、感情と気分――の向上が見られたということです。また同時に、高齢者の方が攻撃的になることも少なくなるということです。

エヴァ・ヨッテルは、ケアに「歌うこと」を用いることは、ケアする人にとって有効であると提言しています。


参考資料:「認知症ケアにおける介護者の歌声とBGMの役割」『ソーシャル・サポート 第1巻 -特集 地域ケアの展開-』NPO法人舞浜ソーシャル・サポート 2007年

参考資料:Gotell, E et al., (2002) Caregiver Singing and Background Music in Dementia Care, Western Journal of Nursing Research, 24(2), 195-216.





最近の話題から「ケアする人への支援」 2007.07.023更新

現在の高齢者のケアを取り巻く状況の中に、「自分の能力・個性・資格が生かせる」「働きがいのある仕事」と思いケアの現場に入ったスタッフが、「給与等収入が低い」「休暇をとりにくい」と悩みながら働き、「仕事にやりがいがない」と転職していくというひとつの事実があります。

仕事としてのケアのスタッフ支援は、今後の高齢者のケアを考える上で重要な課題です。今回は、7月4日付で厚生労働省から発表された「福祉人材確保指針」の中から、ケアに従事する人を支援するための大切ないくつかのポイントについて、スポットライトをあててみましょう。

【ケアスタッフ支援のためのポイント】

■良好な環境
人と人のかかわり合いであるケアは、たとえば「人格の尊厳」というような、崇高な理念によってしっかりと支えられ、その確固たる理念によってケアの方針が定められることが大切になります。
また、そのような観点からケアする人の育成をはっきりと確立することが求められています。
(「Webセミナー(1)高齢者ケアに大切なこと」参照)

■介護技術の研究
北欧などに比べて、日本では福祉用具があまり使われていません。福祉用具とは、高齢者とケアする人の両方を助ける道具です。例えば、ある用具を使うとケアする人の腰への負担を減らすことができ、より安全な関係を築くことができます。

今回の指針のなかでは、福祉用具の積極的な活用につとめることを勧めています。さらに質の高いケアを行うという観点から、先進的な福祉用具等の研究を行い、その成果の普及を図ることが求められています。また、ケアにあたる人たちの負担を軽くするために、腰痛対策などの介護技術について、正しく実践的な技術の研究と普及が求められています。

■キャリアアップ
ケアを行う人が、生涯を通じて学ぶ機会を得ることが求められています。ケアスタッフが自己研鑽を図るために、職場の中に学習する機会をもうけることや、外部研修に参加する機会を確保することが求められています。
また、働きながら国家資格等を取得できるような配慮も必要とされています。

■働くための環境
ケアを行うスタッフの働く環境の一つとして給与があります。福祉施設で働く人の給与は、年齢や勤務年数に差があるものの、一般に働く人たちの平均年収に比べて、低くなっています。

 


職種 年齢(才) 勤務年数(年) 年収試算額(千円)
全労働者 40.7 12.0 4,529.2
男性 労働者 41.6 13.4 5,111.4
女性 労働者 38.7 8.7 3,236.4
男性 福祉施設介護員 32.1 4.9 3,153.4
女性 福祉施設介護員 37.0 5.1 2,810.2
女性 ホームヘルパー 44.1 4.9 2,623.7
女性 介護支援専門員 45.3 7.7 3,734.1
女性 看護師 35.4 7.0 4,200.3
女性 看護補助者 42.6 6.3 2,609.5

使い道が決まった安全な保険料として国民が負担する介護保険料は、文字通り介護保険にしか使えません。保険料はサービスとなって住民に使われます。今後の介護保険料の設定がケアする人の生活を左右し、ケアを受ける人の生活を左右することになるという事実がここにあります。

この他にも、ケアする人が心身ともに充実して働くことができるよう、健康管理対策の推進が求められています。また、ストレスの緩和、心の健康を図るためにメンタルヘルス対策も進められる必要があります。


参考資料:スウェーデン福祉研究所(JSCI)機関誌『MIMER(ミーメル)Vol.1』 2006

参考資料:「置き去りにされた認知症ケア」『ソーシャル・サポート 第1巻 −
特集 地域ケアの展開−』NPO法人舞浜ソーシャル・サポート 2007年
参考資料:『社会福祉事業に従事する者の確保を図るための措置に関する基本的な指針」(案)について』社会保障審議会−福祉部会 2007.7.4
参考資料:『介護・福祉サービス従事者の現状』社会保障審議会−福祉部会 2007.7.4





高齢者ケアWEBセミナー 今後のカリキュラムについて 2007.08.06更新

昨年の7月にはじまりましたWEBセミナーが、1年を経過しました。今回はこの1年を振り返りつつ、今後のセミナーの展開をご紹介したいと思います。

セミナーの第1回では、高齢者ケアの理念をご紹介しました。高齢者ケアは、「ケアする人」と「ケアされる人」と単純に図式化するのではなく、互いにケアし、される立場であるという相互のかかわりこそ大切にしたいと考え、ご紹介しました。
今後も人と人の関係性に光をあてることをセミナーの基礎において、お話を進めていきたいと考えています。

次に、ケアの理念を念頭に置きながら、ケアカンファレンスでスタッフを支援された心療内科の先生をご紹介しました。この回では、特に「喪失体験」を抱えた方へのケアが焦点になりました。
現在、先生は心療内科クリニックを中心に、重度認知症デイケア、通所リハビリテーション、地域密着型事業に取り組まれています。認知症になった方の尊厳を保つための医療と介護の連携について、今後もお話を伺っていきたいと思います。

ケアの現場に密着し、認知症ケアの実践教育に、半年間携わられたスウェーデン・エスロヴ市の成人学習講座教育担当者オーサ・クラムボーン先生は、今年8月末に再来日されます。今回は滞在期間を1年とし、ケアスタッフの教育にあたられる予定です。エスロヴ市で行われている教育プログラムの一端を、このセミナーでご紹介していきます。

認知症緩和ケアの理念と、その補完的なコミュニケーション・ツールであるタクティールケア。現在、ケアスタッフ、看護師、OTなど多くの方々が、認知症緩和ケアの理念を学び、タクティールケアの実践に取り組まれています。
また、タクティールケアの対象は、高齢者と介護者、子どもと親、障害のある方、末期患者の方々へと広がりを見せています。これからはそのような実践と体験をご紹介したいと思います。

医療保険および介護保険制度は、少子高齢社会の進展の中で刻々と動いています。状況の変化を知り、地域の中で私たちが必要とするもの、私たちができることを行いながら、さらに変化に対応する力、新たな考え方を創造する力をつけていくことが必要です。
今後は、地域ケアという考え方を、現在の流れの中でさらに深めていきたいと考えます。また、制度の中のケアだけではなく、ボランティアによる地域における人と人の関係作りについてなど、話題は広がっていきます。

これからのWEBセミナーでは、これまでのセミナーの内容を深めていくとともに、多世代間交流、生涯教育、福祉用具・機器、食事作り、口腔ケア、介護予防など、新しい話題もご紹介していきたいと思います。


参考資料:「地域の福祉社会化と活性化」『ソーシャル・サポート 第1巻 −
特集 地域ケアの展開−』NPO法人舞浜ソーシャル・サポート 2007年





Webセミナー24 地域ケアと子供たち(1) 2008.1.15更新

舞浜倶楽部 富士見サンヴァ−ロでは、浦安市の社会福祉協議会と連携して、中学生から大学生までの学生ボランティアの活動を受け入れています。昨年は10名、今年はこれまでで7名の方が参加されました。また、千葉県の教育庁 生涯学習課が進める「ゆめ・仕事ぴったり体験」というモデル事業にも協力し、小学生の介護ボランティア体験も受け入れています。

なぜ舞浜倶楽部が、そのような活動に協力するのかということですが、その背景には、スウェーデンで体験した、ある出来事があります。

15年程前に、スウェーデンで介護・福祉の研修をしていたときの体験なのですが、ある日、小さな幼稚園に出かけました。その幼稚園は普通の幼稚園ではなくて、環境に非常に配慮してあった幼稚園でした。例えば、生ゴミをたい肥に戻すというようなことを行っていたり、さまざまな事例を通して小さな子供たちに環境問題を伝えていました。

そこでは、6才くらいの小さな子供たちが、ゴミの分別を行っていたりします。小さい時から、環境問題に対する行動を“生活習慣”にしてしまう。そんなことが、その幼稚園では実践されていたのではないかと思います。

それから15年経ちましたが、いま、地球の環境問題というのは、私たちが直面している最も大きな問題になっています。そして、15年前に5才、6才だった子供たちというのは、いま20才前後になっています。スウェーデンでは、大人になった彼らが、環境問題に対して積極的な取り組みをしていくのだろうと思います。

問題というのは、いつも目の前にあるものですが、同時にそれは、将来もっと大きな問題になることがあります。そういった問題に対して、大人だけではなくて、子供たちがまだ小さな頃から“生活習慣”になるような具体的な方法で、問題と関わっていく。そんなスウェーデンでの体験は、とても大きなことでした。

話は戻って、いまの子供たちと社会福祉についての関係を考えたときに、このスウェーデンでの体験が何か参考にならないものかと考えました。

福祉の現場では、いま様々な課題があり、その課題は決して大人たちだけの問題ではなく、これからの未来の社会を支える子供たちにとっても重要なものになります。そのときに、介護・福祉についての意識を“生活習慣”として子供たちが小さな頃から身につけていくのは、とても大切なことなのではないでしょうか。

子供たちのボランティアをそのためのひとつの有効な方法として捉え、地域の子供たちに福祉についての知識・意識を高めてもらうことも、これからの地域の福祉施設が果たす大切な役割なのではないかと思います。


本原稿は、2007年8月18日に、舞浜倶楽部 新浦安フォーラムで開催された『地域ケアと子供たち』セミナー(セミナー講師:上坂 勝芳(舞浜倶楽部 富士見サンヴァ−ロ施設長))の内容に加筆・修正を行ったものです。

参考資料:「地域の福祉社会化と活性化」『ソーシャル・サポート 第1巻 
−特集 地域ケアの展開−』NPO法人舞浜ソーシャル・サポート 2007年





高齢者ケアWEBセミナー 地域ケアと子供たち(2) 2007.09.18更新

子供たちのボランティアを、私たちが舞浜倶楽部に受け入れるとき、たとえボランティアの時間が3時間ほどであったとしても、90分は時間をとってオリエンテーションを行います。

子供たちがお年寄りと「なんとなく」触れあうのではなく、福祉をめぐるいまの状況を理解して、大事なことはなにかを考えた上で、介護の現場を体験する。それよって、ボランティアの意味が、子供たちとってより深くなるのではないかと考えます。

オリエンテーションの資料(シート)では、まず「高齢化社会とは何か」について取り上げます。高齢化社会というのは、単にお年寄りの数が増えるということではなく、人口のバランスが変わり、社会全体にさまざまな課題が与えられるということです。特に浦安市は日本で最も若い町で、高齢化率は約10%、日本の平均のだいたい半分です。これから20年30年と経つうちに、急激に町が高齢化していき、どんどん町の状況が変わっていくことが考えられるのです。そのようなお話を伝えます。

次に、プライバシーを守ることについてお話をします。子供たちは、ボランティア活動について、家に帰って家族の方と「今日はこんなことがあったよ」と話すかもしれませんが、個人情報保護という点から守らなければならないことを伝えます。

そしてもっとも重要な「認知症と人格の尊厳」についてお話します。シートには次のように書かれています。
「お年寄りの中には認知症の方もおられます。物忘れや、同じ話を繰り返す人に、あなたは気がつくかもしれません。しかし、認知症の人の大きな特徴は『ある部分では非常にしっかり、敏感に理解することができる』ということです。また、どんなに認知症の症状があっても、人としての尊厳は失われません。長い人生を生きてこられた先輩として、敬意をもって接してくださることをお願いします。」
これは、私たちが伝えたい、大切なメッセージです。

子供たちが研修に来て出会う認知症の方々も、人としての尊厳が失われることはないのです。逆にいえば、私たちのどのような行為が他の人の尊厳を奪う行為となるのか。そういったことを、認知症の方へのケアに限らず考えていかなければなりません。このことは、子供たちだけではなく、私たち職員も最初の研修のときにしっかりと考える部分です。

オリエンテーションの中には、「福祉の仕事につくには」という項目もあります。最近は、子供の頃から福祉の仕事に就いてみたいと思ってくれる方もいるようです。そこで、福祉の仕事と資格についてお話をします。シートには、特に子供たちに伝えたいメッセージとして、「人を思いやる気持ち、人の痛みがわかること、人のことを大切に思うこと、自分を大切にできること、それらは資格とは関係なく必要です。」と書かれています。

子供たちの社会にも、いじめや不登校、引きこもりなど、人間関係にまつわる様々な課題があります。福祉の仕事につくのはまだ先のことですが、いま目の前にある人間関係に対しても大切なことは、「人を思いやる気持ち、人の痛みがわかること、人のことを大切に思うこと、自分を大切にできること」ではないでしょうか。そのことを子供たちにお話します。


本原稿は、2007年8月18日に、舞浜倶楽部 新浦安フォーラムで開催された『地域ケアと子供たち』セミナー(セミナー講師:上坂 勝芳(舞浜倶楽部 富士見サンヴァ−ロ施設長))の内容に加筆・修正を行ったものです。





WEBセミナー26 地域ケアと子供たち(3) 2007.10.9更新

子供たちがボランティア活動に入る際には、90分の時間をかけてオリエンテーションを行います。福祉をめぐる現状、プライバシーの保護、そして「人格の尊厳」についてお話をします。
入念なオリエンテーションの後は、すこし趣向をかえてグループワークを行います。

グループワークの内容は、あるひとりの認知症の方を想定して行います。その方の一週間のケアのスケジュールを、子供たちとスタッフで一緒に作ってみるというものです。本来これはケアマネージャーが、高齢者の方のサポートのための計画表として作るものです。

たとえば、山本さんという市営住宅に住む80才の男性の方を想定してみましょう。山本さんの生活習慣について、具体的ないくつかの条件を設定して、この方の生活をどんな形でサポートしていこうかとういうことを、みんなで話し合いながら計画を立てていきます。

子供たちというのは、少しヒントを出すと、山本さんをサポートする上でおこる様々な課題について「こういうことがあるんだなあ」とよく気付いてくれます。

ケアのためのサービスの計画を立てるときに重要な点は、あくまでも「山本さんが山本さんらしく、活き活きと暮らすことをサポートする」という目的にあります。もしかすると、子供たちが考えたサービスの計画を、ケアを受ける山本さんが望まないかもしれません。そのようなときに、それを無理矢理押し付けてしまうというのでは、サービスの目的を踏み外すことになります。

ケアのためのプランは、本来はサービスを受ける人と一緒に作るものです。大切なのは、その相手の方がどんなことを望んでいるか、どのような生活をしたいのかを一緒に考えることです。高齢者になることで失われていた、自分らしい、自立した生活というものを、サービスを利用することでもう一度理想の状態を取り戻していくこと。そのことを常に念頭において、計画を立てることが大切だということを、子供たちに理解してもらいます。

このグループワークで、ケアの計画を作るときに、私は必ず次の質問をします。それは、「火曜日と土曜日の朝8時のゴミ出しはどうしたらいいんだろう?」という質問です。朝早いのでヘルパーさんにも来てもらえません。前の日に出しておくこともできません。子供たちはいろいろと考え、みんな同じ答を出します。それは、「私が手伝います」「隣に住んでいる人が手伝ってあげたらいい」。

この答はとても嬉しいものですが、ここに大きな問題が含まれています。例えば今の自分たちの生活を振り返ってみたときに、隣に一人暮らしをしている高齢者の方のゴミ出しを、実際に毎週火曜日と土曜日に手伝うことができるでしょうか。そのためには、ゴミ出し以前に相手の人との親しいコミュニケーションが不可欠になります。実際に、そこまで親密なコミュニケーションを隣に住んでいる人と取れているのでしょうか?

人々が、住み慣れた場所で、自分のライフスタイルで生きることをベースに、豊かな人間関係を育むこと。人々が、無理をせずに普通に見守り合い、助け合うこと。そんな社会を目指す地域ケアの観点から見て、地域の人々の密接なコミュニケーションをどのように取り戻していくかは、大きな課題として挙げられます。この課題を、子供たちが今から意識していくことが、未来へ向けての大切な働きかけになるのではないでしょうか。


本原稿は、2007年10月9日に、舞浜倶楽部 新浦安フォーラムで開催された『地域ケアと子供たち』セミナー(セミナー講師:上坂 勝芳(舞浜倶楽部 富士見サンヴァ−ロ施設長))の内容に加筆・修正を行ったものです。





WEBセミナー27 高齢者ケアを学ぶことについて(1) 2007.10.31更新

現代日本の高齢社会。その「高齢社会における高齢者ケア」について考えたとき、介護の仕事に携わるスタッフの育成はもっとも大切なことです。そして同時に、地域の人たちが高齢者ケアについてより理解を深め、知識を共有していくことも同じように大切です。

前回までご紹介してきた、ケアの現場への子どもたちのボランティアの受け入れも、未来のケア・スタッフの育成支援という狭い視点だけでなく、広い意味で、未来につながる福祉について知識・理解のある人々を育てるという面においてもとても重要なことです。

複合型ケア・コミュ二ティとして登場した新浦安フォーラムのもつ一つの大きな役割として、地域社会の福祉および高齢者ケアにおける「人材育成・実習施設=セミナーハウス」としての一面があります。特に、新浦安フォーラムでは、「認知症緩和ケア」に重心をおいて、地域全体とともに学んでいくということを目指しています。

セミナーハウスには、まず、高齢者ケアに携わるスタッフの専門教育・研修の場としての役割があります。ケアに関する様々な知識や技術を学び、それを実際の現場を通して身につけていく。新浦安フォーラムでは、この二つのプロセスを同じ場所で行うことができることで、知識や技術の習熟度をより高めることにつながります。

そして、もうひとつの大きな役割が、地域に住む一般の方々や高齢者のご家族の方々が、スタッフや高齢者の方々、あるいは子どもから障害者を含め、多世代・多方面の方々と交流し、そして学ぶ「場」としての役割です。

高齢社会では、高齢者の方々が生活のすぐ身近にいるという状況が日常となります。そういった社会では、スタッフだけでなく、高齢者のご家族や行政関係者、また接客業に携わる方なども含めた一般の人が、「高齢社会をともに生きる人」としての意識をもち、高齢者や認知症についてしっかりとした知識や理解を深めることがとても大切であると考えます。

次回に続く。





WEBセミナー28 高齢者ケアを学ぶことについて(2) 2007.11.19更新

高齢者ケアを学ぶということ。そこには、まず高齢者や認知症などについて、正しい知識を学んでいくということがあげられます。確かに、それはひとつの側面といえます。

以前ご紹介した、スウェーデン・エスロヴ市における高齢者ケアの成人学習講座では、高齢者ケアについて学ぶということを、「自分自身を知り、人間関係の本質について理解を深め、社会を学ぶ」ことにつながる、というように位置づけています。

これからますます高齢者が増える日本では、高齢者ケアや認知症ケアといったテーマについて、社会全体で学び、知識を共有していく必要があるでしょう。
「高齢者ケア」「認知症ケア」について学ぶということを突き詰めていくと、その根幹には、やはり「人間の関係のあり方を学ぶ」という考え方があります。

私たちの社会は、人と人とのつながりによって成り立っています。その関係のあり方、相手との距離の取り方や関わり合い方について混乱し、どのようにすれば良いか分からなくなってしまう、というような状況が、現代社会では一般的な問題として見られます。
子育てにおける親と子の関係。いじめや引きこもりなどが大きな問題となっている、子供同士の関係。そして、同様に大人の人間関係におけるケースなど、人と人との関係のあり方については、社会のあらゆる場面に影響を及ぼしていると言えるでしょう。

人間関係が良好であるか否かは、もちろん高齢者をめぐる状況にも大いに関係します。例えば、認知症の進展の要因として、高齢者の方とご家族など身近な人との人間関係のストレスが発端となっているという事例も多く見られます。
高齢者ケアや認知症ケアについては、より良いコミュニケーションをいかに取り、お互いの信頼関係をどのように築いていくかということが、なによりもまず重要なこととして挙げられるでしょう。
「良好なコミュニケーション」と「信頼に満ちた人間関係の構築」が、ケアの根底には必要とされています。

目の前にいる人との関係の在り方をみつめ、お互いがより良い間柄となり、共に歩むことができるように考え抜くことは、高齢者ケアに取り組む上で、「知識」以前に必要とされる、いちばん大切な「姿勢」と言えるでしょう。

●現在、舞浜倶楽部には、スウェーデン・エスロヴ市の高齢者ケア教育の専門家オーサ・クラムボーン先生が再来日しています。約1年間高齢者ケアの現場における指導プログラムや市民向けセミナー等の活動に携わっています。
また、11月・12月の2か月間、スウェーデンのメーラルダーレン大学からペトラさんとアニヤさん、2名の学生が、舞浜倶楽部の新浦安フォーラムを中心に現場研修を行っています。






WEBセミナー29 ご高齢者の食事について(1) 2008.1.15更新

普段の暮らしの中で、食事は私たちにとってなくてはならない大切なものです。

食事には、「外食」やお客様にお出しするような、いわば「よそいきの食事」と、普段の生活の中に自然に感じている「日常の食事」があります。

今回から数回にわたって、日頃私たちの身近にある「日常のご飯」について、地に足のついた視点から、お話をご紹介していきます。

■「食べる時間」を「楽しみの時間」に。
食事は、ご高齢の方が楽しみにされていることのひとつです。毎日の食事は、栄養の補給という意味あいだけでなく、「楽しみの時間」としても大切な役割をもっています。

ところが、何らかの理由で食事に楽しみが感じられなくなると、食事の時間が単に「通り過ぎていく時間」になってしまいます。

ご高齢の方に「食べる時間」を「楽しみの時間」と感じてもらうためにも、例えばご高齢の方が苦手とするものを出さないようにするなどの、心配りや工夫が大切です。

■生活歴を考える。
料理を食べる相手の方のことをどれだけ考え、どれだけ分かってあげられるか。それは、ご高齢の方向けの料理だけではなく、料理をするということの根本の部分で大切にしたい心です。

ご高齢者の食事を考えるときに、その方々が過ごしてこられた生活歴について思いをめぐらせるというのも、ひとつの切り口です。

例えば、野菜や果物、魚など、季節季節の食材が食卓に並ぶことが普通だった時代を過ごされた方々は、いまの若いひとたちに比べて、料理における「「旬=季節感」に敏感です。

また、ご高齢の方の場合、若い頃よりも噛む力などが落ちているということなど、ご高齢者ならではの事情もありますので、そういったことについてのより深い理解が欠かせないものとなります。

■ご高齢者の「気持ち」に近づく。
ご高齢の方の中には、「いつも迷惑をかけて申し訳ない」と感じてしまっていて、ご自分の気持ちを外に出せないでいる方もおられます。

そのような方は、苦手なものや何らかの理由で食べづらいものがあっても、その思いをご自分の気持ちの中にしまいこんでしまい、なんとなくとその場をやり過してしまうこともあります。

そのような場合には、ご高齢の方が「食事をされているときの様子」や「億劫にしている様子」が、その方の食事に対する気持ちに近づき、気づくためのひとつのヒントとなることがあります。

例えば、ご高齢の方がお食事をされているときに、どことなく食べづらそうにしているようであれば、そこには必ず原因があるはずです。また、料理を食べ残してしまう場合には、「味」であったり「固さ」であったり、その都度さまざまな理由が考えられます。

何か気になる点を見つけられたら、こちらからご高齢の方に話しかけてみることで、食事におけるその方の気持ちに近づくことができるかもしれません。







Webセミナー30 ご高齢者の食事について(2) 2008.2.12更新

ご高齢の方は、お年を召されるとともに、体力の衰えを感じることがあります。以前は普通に思えていたことでも、徐々に支障を覚えることがあります。このことは食事についても言えるようです。そのことを意識した食事について、記してみたいと思います。

[ご高齢者の食事への配慮]

(1)固さについて。大きさについて。
例えば、数年前には、ご家族のみんなと同じように食べることができていた食事の「固さ」や「大きさ」が気になり、いつからか食べづらくなっていた、という方がいらっしゃいます。

そういった場合の原因として、噛む力の衰えや唾液の量の減少、歯の欠損や義歯(入れ歯)の具合、消化機能の低下(胃酸の減少や腸管機能の低下)などが影響していることが考えられます。

数年という年月の間に、ご高齢の方の身体的機能が徐々に衰えたため、以前と同じ「固さ」や「大きさ」の食事では、食べづらいように感じてしまうのです。

ご高齢の方だけに、別のお食事を作るというのではなく、なるべくご家族の方が召し上がるものと同じメニューで、工夫を加えることで食べやすく仕上げることも可能です。

例えば、大根を煮るときにはこれまでより5分長く煮ることが、「固さ」を取るコツです。煮物や炒め物は、調理時間をいつもより少し長めにとることで、やわらかく仕上げることができます。

次に大切なポイントは「大きさ」です。工夫してやわらかく煮た食材でも、大きくては食べるのに苦労します。箸で食材を切り分けるというなにげなく思えることも、筋力の低下や視力の低下(特に視野が狭くなることなど)によって、ご高齢の方によってはむずかしい場合もあるからです。

おひとりお一人の個人差はありますが、あらかじめ食べやすい大きさに料理を切り分けておくことも、ご高齢の方が食べやすくなる大切なポイントのひとつです。

また、食材によっても、食べやすさといったことは変わってきます。どのような食材に注意したらよいのでしょう。ご高齢の方にとって噛みにくい、あるいは食べにくいと思われる食材の工夫の一例を表にしてみました。



食べにくいと思われる食材の工夫の一例

ご高齢の方のために、何を使って料理をすればよいのかと、心配になる場合があるかもしれませんが、表に挙げた例のように、普段の配慮に少しの工夫を加えることで、食べやすい食事をお出しすることができます。

「固さ」「大きさ」への配慮が、ご高齢の方のお食事を作る際に、心がけたいポイントです。





Webセミナー31 ご高齢者の食事について(3) 2008.3.3更新
(2)お献立について。
ご高齢者に、毎日の食事をおいしく召し上がっていただき、食事の時間を「楽しみな時間」と感じていただくために、献立の工夫というものがあります。

毎日の食事で大切にしたいのは、地に足のついた生活感のある、食べると心が落ち着くような家庭の味です。それでも、メニューが似てきて、飽きがきてしまうこともあります。食べる喜びを常に感じていただくために、飽きのこない献立作りを考えたいものです。

普段作り慣れた基本の献立がまず先にあり、その上で何かできる工夫を考えたとき、そのひとつに旬の食材を使うということがあります。

いつもながらの野菜や魚も、いわゆる旬の時期のものには、その食材のおいしさが詰まっていて、栄養価も高いといわれます。例えば、寒い季節には白菜がいちばんおいしいので、それをメニューに取り入れてみます。白菜は、他の食材に比べて決して豪華だったり見栄えがよいわけではありませんが、旬ならではの旨味が、食べ慣れた料理に新しい美味しさを引き出すアクセントになってくれます。

また、味や栄養以外にも、旬の食材によって生まれる「食の喜び」があります。例えば旬のものを、ほんのすこし早いタイミングで食べていただく。そうすることで、これから訪れる季節を感じていただくことができます。例えば「いちご」を冬の終わりに食べていただくと、「もうすぐ春が来るんだなあ」という、季節の移り変わりが感じられます。食材の季節感をよくご存知のご高齢者だからこそ、料理で季節を味わっていただくことができるのではないでしょうか。

こんなお話もありました。春の食材「ふき」を使ったお料理をお出ししたときのことです。召し上がった方が、むかし北海道でおいしいふきを食べた経験があり、北海道で過ごした時の出来事や風景を思い出されたそうです。思い出に残っている食材や料理を食べたときに、その方の心の中に眠っている昔の記憶がよみがえる。食事は、食べる方の気持ちに深く関わっているものということができるでしょう。

献立を考えるときに、ご高齢者のお体のことを考えると、「健康のために食べてもらう」という意識が強くなってしまうこともあります。栄養面を十分に考えた献立は、もちろん重要なのですが、「食べる人が何を望んでいるのか」という相手の気持ちを思いやり、食事の時間を「心の健康」につなげる、「食べる楽しみ」を提供する献立作りという考え方もまた大切にしたいと思います。




Webセミナー32 ご高齢者の食事について(4) 2008.3.25更新
[ご高齢者の食事への配慮]

(3)塩加減について。
ご高齢者のお食事で気をつけたいことに、塩加減があります。
塩分の取りすぎにならないように、注意することは大切です。かといって、単に塩を減らすことで味が薄くなってしまい、お料理が美味しくなくなってしまうというのも考えものです。塩分をおさえても、調理の際のひと工夫で、お料理の旨味を引き出しましょう。

塩分を控えめにしても料理の旨味を保つコツは、「出汁」をしっかりとることです。昆布と鰹などを使い、基本の出汁をしっかりと作ります。そのひと手間で、塩を少なめにしても料理の旨味を十分に補うことができるのです。

また、出汁をベースにした「出汁わり醤油」や、カレー粉などの香りのある調味料をお料理に使うことによっても、塩加減をおさえたままお料理の美味しさを引き立てることができます。

(4)色について
お料理や食材の「色合い」によっても、お食事に対するお気持ちは変わるようです。

色についての感覚は、もちろん人それぞれですが、一般的には美しい色合いやあざやかな色は、人の食欲を高めてくれることが多いようです。特に、緑黄色野菜などは、お料理を美味しく見せてくれる食材です。

お料理の色について考えるときに大切にしたいのは、基本的な調理方法です。例えば、野菜は茹でることで、食材の栄養素やあざやかな色が変化します。けれども、食べるときの“やわらかさ”のことを考えると、ご高齢者のためには野菜をよく茹でて、食べやすくしてからお出ししたいと思います。

ここで、料理の基本に立ち戻って、ひと工夫をしてみましょう。例えばホウレンソウや小松菜などの青菜のおひたしを作る場合には、沸騰したお湯で5分茹でるよりも、90度ぐらいの中火で10分茹でることで、緑のあざやかさを保ったままやわらかい食感を得ることができます。

また、カリフラワーなどを茹でるときには、お酢を足すことで白色が保たれます。ゴボウやレンコンを煮て、白く仕上げたいときも同様に少量のお酢を使います。

こういったひと工夫が、お料理をいっそう引き立ててくれるでしょう。

(5)衛生について。
ご高齢者の食事に限ったことではありませんが、調理をする際に清潔を保つことについても、配慮していただきたいと思います。ご高齢者の中には、体力とともに免疫力が低くなっている方もおられます。雑菌に対する抵抗力も落ち、感染症にかかりやすくなるケースもあります。

調理をする場所のお掃除や、まな板や包丁などをはじめとする調理器具、料理を盛りつける器や箸・スプーンなどの食器類をしっかりと洗浄・乾燥して、常に清潔な状態を保つなど、日頃から基本的なことをつづけていただくことが大切です。

また、例えば食器類の扱いでは、お皿にのせた料理を、そのまま包丁などで切ったりすると、お皿の表面に包丁の刃が当たり、傷がつきます。その傷口に雑菌が入り込むこともあるのです。そうして食器に付いた菌は、洗っても十分に取れないことがあるのです。

常日頃の心がけを大切にしたいと思います。




Webセミナー33 ご高齢者の食事について(5) 2008.4.14更新
[食べやすいひと工夫メニュー]
ご高齢者に配慮し、美味しく、食べやすくするために工夫を凝らしたメニューを舞浜倶楽部の調理師さんに教えていただきました。
今回と次回は、そのレシピをご紹介します。

■□■ メニュー1 天ぷらの卵とじ ■□■
天ぷらは、衣が食べにくいと感じてしまわれたり、噛み切るために力が必要だったりするなど、食べたくても意外に敬遠される方がいらっしゃるそうです。
ご高齢の方に、天ぷらの美味しさを味わっていただくために考えたメニューです。 

【材料/1人分】
<天ぷらの材料>
えび(ブラックタイガーなど)/1本
茄子/4分の1カット
アスパラ/2分の1カット
※天ぷらは市販されているものでも結構です。

卵/1個
玉ねぎ/4分の1カット
みつ葉/少々

<天つゆ>
出汁/120cc
醤油/20cc
みりん/20cc
砂糖/15g

天ぷらの材料
天ぷらの材料

【作り方】
(1) えび、茄子、アスパラの天ぷらを揚げます。
(2) 天ぷらを食べやすい大きさに切ります。えびは、まずしっぽを落とし、縦半分に切った後、それぞれを3等分にカット。茄子とアスパラは、えびの大きさを目安にして、小さくカットします。

えびの切り方1
えびはしっぽを取り
えびの切り方2
縦に半分カット
えびの切り方3
それぞれを3等分に
天ぷらを細かく切る
天ぷらの具は細かく切る
(3) 昆布と鰹で出汁を作り、温かいうちに醤油、みりん、砂糖を足して天つゆを作ります。
(4) (3)の天つゆに玉ねぎのスライスを入れ、中火で5分煮ます。
(5) 一度火を止めて、小さくカットした天ぷらの具材を入れ、再び火にかけます。弱火で2〜3分煮込んでください。
(6) 溶いた卵を鍋に流し込み、みつ葉を散らしてフタをします。さらに弱火で2分煮ます。
(7) お皿に盛り付けてお召し上がりください。
天ぷらを煮る
天ぷらの具を入れて煮る
卵でとじる
卵でとじる
みつ葉を散らす
みつ葉を散らす
できあがり
温かいうちにどうぞ
《実際にいただいてみました》
天つゆの旨味が染み込んだ天ぷらの具材を、卵の甘味がふんわりとくるんでいて、その味わい深さは、普通の天ぷら以上かもしれません。また、スプーンですくいやすく、口の中でも噛みやすく飲み込みやすい、やさしい食感です。
美味しさと食べやすさがマッチした一品です。ぜひお試しください。




Webセミナー34 ご高齢者の食事について(6) 2008.5.7更新
[食べやすいひと工夫メニュー2]
前回に引き続き、今回もご高齢者にお食事を楽しんでいただけるようなひと工夫レシピをご紹介したいと思います。

■□■ メニュー2 合い挽きそぼろのあんかけ ■□■
合い挽き肉をそぼろにして、あんかけをすることで肉の旨味を余すところなく楽しめ、肉を強く噛み切ることなく、食べやすくのどごしも良い一品です。

【材料/1人分】
合い挽き/150g
玉ねぎ/4分の1カット
にんじん/6分の1カット
椎茸/1個
高野豆腐/2分の1カット
酒/15cc
塩、こしょう/少々

大根おろし/適量

<あんかけのあん>
出汁/100cc
醤油/20cc
みりん/15cc
砂糖/10cc
片栗粉/適量
ゴマ油/少々

<つけ合わせ>
トマト、キャベツ/お好みで適量

材料
1人分の材料

【作り方】
(1) 玉ねぎ、にんじん、椎茸をみじん切りにします。
(2) 高野豆腐を乾燥した状態のまま、すりおろし、粉末にします。
(3) 次に、フライパンにサラダ油を小さじ一杯分ひきます。
(4) 挽き肉を強火でほぐすように炒めます。
(5) 肉に火が通りかけてきたら、玉ねぎとにんじん、椎茸を入れてさらに炒めます。少し炒めたところで中火にし、塩こしょうをします。

ひき肉を強火で炒める
ひき肉を強火で炒める
材料を加えてさらに炒める
材料を加えてさらに炒める

(6) お酒を大さじ1杯(15cc)加え、すりおろした高野豆腐を加えてさらに炒めます。
(7) 玉ねぎが透き通り、肉汁がなくなったら、火を止めます。
(8) 湯がきしたトマト、軽く茹でたキャベツを刻み、つけ合わせを作ります。
(9) あんかけの“あん”を作ります。出汁に醤油、みりん、砂糖を加えて軽く煮立たせ、水に溶いた片栗粉を入れます。最後にゴマ油を足します。

<ワンポイント>“あん”が思ったようにうまく作れない場合。
火にかける前に、あらかじめ調味料と水溶き片栗粉を加えておき、弱火でゆっくり混ぜながら“とろみ”をつけると、比較的簡単に作ることができます。

(10) お皿に盛り付け、つけ合わせをそえます。
(11) 大根おろしをそえ、あんをかけてできあがりです。

お皿に盛り付ける
お皿に盛り付ける
できあがり
できあがり
《実際にいただいてみました》
スプーンですくいやすく、一口で噛みやすいので、とても食べやすいお料理です。高野豆腐が肉汁を逃がさず十分に吸いこんでいて、口の中にジューシーな旨味が広がります。あんかけにすることで、口当たりがよく、そぼろのぱさついた感じも気にならず、飲み込みもしやすく仕上がっています。

EBセミナー「ご高齢者の食事について」は今回でひとまず終了になります。次回からは日本での認知症ケアのあゆみについてご紹介していく予定です。




Webセミナー35 日本での認知症ケアのあゆみ(1) 2008.6.2更新

〈日本の認知症ケアの歴史を学ぶ意味〉

かつての「寝たきり高齢者のケア」から「認知症高齢者のケア」が、高齢者ケアの最重点課題といわれるようになって久しくなりました。

今回から数回にわたって、『認知症の人のためのケアマネジメント センター方式の使い方・活かし方』を参考文献に、私たち自身が体験したことなどを交えながら、認知症ケアの歴史について考えていきたいと思います。

認知症ケアの歴史は、認知症の方とご家族の方、そしてケアに携わる関係者が繰り返してきた、試行錯誤の道筋といえます。

なぜ認知症ケアの歴史を学ぶことに意味があるのかというと、まずひとつには、そういった過去の事例を振り返ることで、私たちが認知症ケアを行なう際に同じ失敗をたどることがないようにするということがあげられます。

そしてさらには、これから私たちが目指すべき未来の認知症ケアのあり方を確認することができると考えるからです。

(1)ケアなきケアの時代 1970年代頃〜
1970年代には、認知症のケアについての明確な理念や方向性がなく、行き当たりばったりな対策がとられていました。

「認知症」という言葉自体、2004年頃から使われ始めた言葉です。それ以前は「痴呆」とか「呆け」といういい方が一般的でした。

1970年代は有吉佐和子さんの『恍惚の人』によって「呆け老人の介護」が話題になったころです。当時、医療や福祉分野で注目をされていたのは、ホスピス活動(終末期医療)と在宅医療、老人医療費の無料化運動などの医療的な活動でした。

「呆け老人」についての研究もあまり進んでおらず、現在のような認知症に対する十分な理解や、認知症ケアの確固たる方向性が確立されていませんでした。

そのため、認知症の症状に対するケアというよりも、一般の高齢者と一緒の施設や家庭介護の中で、行き当たりばったりの対策がとられていたというのが実情でした。

(参考文献:『改訂 認知症の人のためのケアマネジメント センター方式の使い方・活かし方』認知症介護研究研修東京センター 2006年)

※本稿は、2008年3月27日に舞浜倶楽部 新浦安フォーラムで行なわれましたスタッフ勉強会における、舞浜倶楽部 富士見サンヴァ−ロ 上坂施設長の講義をもとに作成しております。




Webセミナー36 日本での認知症ケアのあゆみ(2) 2008.6.23更新
今回も、前回に引き続き、日本における認知症ケアの歴史を辿っていきたいと思います。

(2)問題対処型ケアの時代 1970年代後半〜

1970年代の後半にさしかかると、ようやく認知症に対する認識が浸透しはじめます。1980年には、京都市で「呆け老人を抱える家族の会(現在名:認知症の人と家族の会)」が発足。この頃から、ようやく認知症を意識した上でのケアが行なわれはじめます。

けれども、その対応については、介護をする側からの視点で認知症の方の「困った行動」を「問題」として捉え、その「問題」を表面的に押さえ込もうとするケアが主流を占めていました。

それは、「ケア」とはいうものの、実際には認知症の方の表面的な行動を制限するという点に重きが置かれているもので、その行動を引き起こす原因についての十分な配慮や研究はなされていませんでした。

(3)文脈探索ケアの時代 1980年代頃〜

1980年代に入ると、認知症ケアは、認知症の症状によって引き起こされた「行動」に対処するだけのケアからさらに一歩踏み出し、認知症の方の個々の言動に対して「なぜ?」と問うことで、個別にその原因を探り出そうとするケアへと、新しいケアの方法を模索しはじめました。

現場での実体験を通した感想も交えてですが、この「目に見えている問題の『原因』を探り、症状の解決に役立てる」という考え方は、現在の認知症ケアにもつながるものでした。けれども、その原因を認知症の方個人の中に探ろうとした点において、ケアの限界もありました。

なぜなら、認知症の症状を引き起こす原因は、「認知症の方の中にある問題」だけにその原因があるものではなく、「認知症の方をとりまく周囲の環境」にもまた、症状を引き起こす原因となる問題が存在しているからです。

(参考文献:『改訂 認知症の人のためのケアマネジメント センター方式の使い方・活かし方』認知症介護研究研修東京センター 2006年)

※本稿は、2008年3月27日に舞浜倶楽部 新浦安フォーラムで行なわれましたスタッフ勉強会における、舞浜倶楽部 富士見サンヴァ−ロ 上坂施設長の講義をもとに作成しております。




Webセミナー37 日本での認知症ケアのあゆみ(3) 2008.7.14更新
今回は、80年代以降の日本の認知症ケアの歴史と、ケアに採り入れられてきたセラピーについてご紹介します。

(4)ご本人の可能性指向のケアの時代 1980年代頃〜(同時並行)

1980年代には、前回ご紹介した「文脈探索ケア」と同時に並行するようなかたちで、「認知症の方自身の可能性指向のケア」が目指されるようになります。

この考え方は、〈認知症の方が行なうことができないこと〉に注視するのではなく、その方の中に残されている力や、その方のもつ可能性に着目することで、〈認知症の方ができること〉を認め、ご本人の可能性を伸ばしていくという考え方です。

また、このあたりの時期から様々な種類のセラピーが登場し、認知症ケアにも徐々に採り入れられるようになります。

◆◆ 様々な種類のセラピー ◆◆

◇80年代
●音楽療法:生活の中に音楽(音)を採り入れ、音楽を感じて楽しむことによって脳や体に刺激を与え、身体や精神に良い変化をもたらそうとする試み。
●絵画や陶芸などについても、作業療法から独立する形で認知症ケアに応用されるようになりました。

◇90年代
●フットマッサージ:足の裏にあるツボをマッサージによって刺激することで、身体器官の機能の回復を図ります。
●アロマセラピー(主に植物などの“香り”を用いて心身のリラックスを図る)などをはじめとするヒーリング(癒し)の流行。

◇2000年代
●バリデーション:介護をする相手の人に対するの理解と共感の方法。
●タクティールケア:スウェーデンで理論化・実践されてきた、手のひらでなでるように行なうソフトマッサージ。

セラピーの変遷を振り返ると、セラピーによってもたらすことのできる効果についての可能性の模索と、その方法の試行錯誤の歴史であったといえます。

セラピーについて考えるときに大切にしたいのは、療法ありきでケアを捉えてしまわないということです。認知症ケアにあたっては、まず認知症の方の存在としっかり向かい合うということがはじめにあり、その後で様々な療法を実践するという姿勢が必要だと思います。

なぜなら、ケアをする相手の方と向かい合い、コミュニケーションを重ねる中から、その方のケアにいったい何が必要なのかを考え、その方にとって必然性のあるケアのかたちが見えてくることがあるからです。

(参考文献:『改訂 認知症の人のためのケアマネジメント センター方式の使い方・活かし方』認知症介護研究研修東京センター 2006年)

※本稿は、2008年3月27日に舞浜倶楽部 新浦安フォーラムで行なわれましたスタッフ勉強会における、舞浜倶楽部 富士見サンヴァ−ロ 上坂施設長の講義をもとに作成しております。




Webセミナー38 日本での認知症ケアのあゆみについて(4) 2008.8.4更新
今回は、80年代の後半に中心となった、認知症の方の置かれた周辺環境に注目するケアの考え方をご紹介していきます。

(5)環境そのものを問い直すケアの時代 1980年代後半

1980年代の後半に入ると、認知症の研究がさらに進み、認知症によって引き起こされる症状について、「中核症状」と「周辺症状」という分類で認知症を捉えるという考え方が広まりました。

[中核症状と周辺症状]

中核症状:認知症の中心となる症状で、脳の機能が損なわれることによってもたらされます。認知症による症状として必ず見られる症状です。記憶に障害が出たり、物事を認識・把握・判断する力が低下したり、時間や場所など、自分がいまどのような状況にいるかが分からなくなったりすることがあります。さらに障害が重くなると、相手の言葉が理解できなくなったり思ったことが言葉として表現できなくなる言語障害(失語)や、失行(※1)・失認(※2)などの症状が確認されるようになります。

周辺症状:中核症状が認知症の方へもたらす混乱や不安、ストレスなどが引き金となって発生する症状を、周辺症状と言います。徘徊や妄想、睡眠障害、抑うつ、攻撃的な行動などの症状があります。周辺症状については、人によっては症状が現れないケースもあります。
中核症状・周辺症状のイラスト図
この時期より以前の認知症ケアでは、認知症の方の周辺症状としてもたらされる行為を「抑制」や「隔離」することで、問題を押さえ込むという対応が一般的でしたが、ここにきてその対処法に変化が見られるようになります。

脳機能の損傷によって引き起こされる「中核症状」とは異なり、「周辺症状」については、認知症の方の置かれた環境に、症状を引き起こす原因が見られることがあります。

認知症の方を取りまく周囲の環境が、どのような不安や混乱を認知症の方に与えているか。それについての理解を深め、介護する側のケアの仕方を含めて、認知症の方の置かれている生活環境を見直し、「周辺症状」に配慮したより適切な環境へと改善すること。

こうした環境の改善やコントロールによって、認知症の症状を緩和するというケアの方法が、この時期から一般的にとられ始めます。

※1:失行/物事を論理的に考えられなくなったり、状況を把握できなくなる状態。その結果、例えば食事や入浴などについて、その行為がどのように行なうものかが分からなくなり、その行動を行なうことができなくなる。
※2:失認/目で見えている物を、それが何かを認識できなくなる状態。


(参考文献:『改訂 認知症の人のためのケアマネジメント センター方式の使い方・活かし方』認知症介護研究研修東京センター 2006年)

※本稿は、2008年3月27日に舞浜倶楽部 新浦安フォーラムで行なわれましたスタッフ勉強会における、舞浜倶楽部 富士見サンヴァーロ 上坂施設長の講義をもとに作成しております。




Webセミナー39 日本での認知症ケアのあゆみについて(5) 2008.8.28更新
今回は、1990年代に入り広がりを見せた「ノーマライゼーション」というケアの理念をご紹介していきます。

(6)ノーマライゼーションを背景にした人権擁護ケアの時代 90年頃〜

時代はやがて1990年に入ります。この頃から、北欧で芽生えた福祉思想であるノーマライゼーションの理念を背景にして、認知症の方の人権を大切にしていく考え方が広まりはじめました。

ノーマライゼーションとは、「たとえ認知症による生活障がいを抱えていても、その人にはこれまで通りの暮らしを街で続ける権利がある」という福祉の理念です。

認知症になったからといって、その方をそれまでの生活の場から移して介護施設へ「隔離」してしまうのではなく、その方の人格を尊重しながら、その方がこれまでと同じように地域社会の中で自分の暮らし方を主体的に選択しながら暮らすことができるようにする。

ノーマライゼーションの理念は、たとえば施設にいる認知症の方にも、施設だからといってその認知症の方の行動を「抑制」してしまうのではなく、なるべく普通の生活が送れるようにサポートしていくことにもつながっていきます。

また、たとえば、認知症を“病気”として捉えるだけでなく、その人が持つひとつの“個性”として、前向きに考えていこうとする動きも見られるようになりました。

さらに、この時期には、スウェーデンで試験的にはじまったグループホームへの関心が高まりはじめ、特に福祉先進国とされるスウェーデンなどのケアの手法についての研究が進むようになりました。

グループホームとは、地域の中でひとりで生活していくことが難しいと考えられるご高齢者の方々が、専門的なスタッフの助けを借りながら、地域社会と交わりながら生活をする場所です。大規模な福祉施設とは違い、地域の中の小規模な住居を施設としてつかい、少人数を対象としてケアを行なう、介護の一つの形態です。

(参考文献:『改訂 認知症の人のためのケアマネジメント センター方式の使い方・活かし方』認知症介護研究研修東京センター 2006年)

※本稿は、2008年3月27日に舞浜倶楽部 新浦安フォーラムで行なわれましたスタッフ勉強会における、舞浜倶楽部 上坂氏(当時富士見サンヴァーロ施設長・現舞浜倶楽部ケア教育担当)の講義をもとに作成しております。




Webセミナー40 日本での認知症ケアのあゆみについて(6) 2008.9.16更新
今回は1990年代後半に日本でも広がりを見せた「全人的ケア」という考え方をご紹介します。

(7)全人的ケア(本人主体=パーソンセンタードケア)の時代 90年代後半〜

全人的ケア(本人主体=パーソンセンタードケア)とは、“介護を受ける人”を全ての中心と捉える介護のあり方です。介護を受ける方の人生、趣味、家族環境などをしっかりと理解した上で、ご本人の想いや個性を大切にし、そのお気持ちに寄り添いながら、その方が本当に望まれる生活の実現を目指していきます。

イギリスの故トム・キッドウッド氏が提唱し、欧米諸国で広まった後に、90年代後半に日本にも導入されるようになりました。全人的ケアの考えが生まれた当時のイギリスでは、介護を行う側の事情が優先された介護が実施されているケースが多く、そういった風潮に対して、より介護を受ける人の人権を尊重しようとする流れの中で、広まりを見せました。

介護を行う人が、介護を受ける方の声にしっかりと耳をかたむけ、ご本人の自己決定を重視して、その方の行動をサポートする。これが全人的ケアの基本的な理念であり、介護を行う人は、あくまで認知症の方ご本人の自立を助けるという立場で介護に関わります。

この「ご本人の自己決定を重視し、その方の行動をサポートする」という理念で介護を行う時に、「介護を受ける人が自分でできることを、自分でしてもらう」という考え方が生まれました。この考え方は、一見当たり前のことのように思えますが、実はここに、少し立ち止まって考えなければならない問題が含まれています。

それは、「自分でできることを自分でしてもらう」という考え方が、介護を行う側の押し付けになってしまわないように注意しなければならないという点です。

例えば、他人の助けを借りて何かを行うことが多い人は、「自分でできること」を自分で行うことが徐々に難しくなっていきます。その方が、介護施設などへの入所をきっかけとして、「自分でできることを自分でしてもらう」という考えに基づいた介護を受けるようになった時に、その状態がご本人にとって幸せであるかどうかは、非常に注意しなければならない問題です。

こういった場合にも大切なことは、介護を行う人の考え方を押し付けるのではなく、あくまで介護を受ける方が望むことを第一に優先し、その人らしさを出してもらうために、その望むところを実現することを目指していくという姿勢ではないでしょうか。

(参考文献:『改訂 認知症の人のためのケアマネジメント センター方式の使い方・活かし方』認知症介護研究研修東京センター 2006年)

※本稿は、2008年3月27日に舞浜倶楽部 新浦安フォーラムで行なわれましたスタッフ勉強会における、舞浜倶楽部 上坂氏(当時富士見サンヴァーロ施設長・現舞浜倶楽部ケア教育担当)の講義をもとに作成しております。




Webセミナー41 日本での認知症ケアのあゆみについて(7) 2008.10.7更新
(8)特殊な認知症ケアから、ごく当たり前の生活を支えるケアの時代

[認知症の人のためのケアマネジメントセンター方式]

2000年に、厚生労働省が全国3か所(東京・大阪・仙台)に「認知症介護研究・研修センター」を設置しました。認知症ケアのあり方を研究するこの施設で、認知症の人のためのマネジメントシートが開発されました。

「認知症の人のためのケアマネジメントセンター方式」のシートは、認知症の方ご本人とご家族の暮らしを継続的に支えていくために、認知症ケアに関わるご家族や介護施設のケアスタッフが、共通の情報を共有する方法として考え出されました。

このシートは、より的確なケアプランを作成するために、認知症の方についてのさまざまな情報を書き込むためのシートとしての役割を果たしますが、同時に認知症ケアについての理念的な考え方も表されたシートとなっています。

*************************

2000年頃の介護の現場における大きな出来事として、2000年4月1日に、介護保険制度がはじまりました。高齢化が進む社会事情のなか、社会全体で要介護者を支えるための新しい社会保険制度として施行されました。

この流れの中で、グループホームが介護保険サービスとして認定され、急速な広まりを見せるなど、介護施設をはじめ認知症の方の生活の場を充実させる動きが模索されます。また、この時期には、認知症ケアの考え方について、現在のケアの考え方につながる変化が見られるようになります。

これまでに見られてきた、認知症ケアとして特殊なケアを行なうという状況から、認知症の方を「共に暮らす人」としてその在り方を捉え、その方の当たり前の日常生活を支えるケアへと、ケアの考え方が移行していきます。

認知症になった人が、生活する場所を変えなければならなくなるのではなく、いままで住んできた場所で、できるだけそれまで通りの暮らしをつづけること。その生活を地域社会全体でサポートするという考え方は、現在の地域ケアの流れにつながります。

小規模多機能サービスや認知症デイサービスなどの介護サービスについても、こういった一連の動きの中にあり、これらの地域ケアのサポートの拠点として、これからもますます重要な役割を果たしていくと考えられます。

*************************

今回の連載のはじめにも述べましたように、認知症ケアの歴史は、認知症の方とご家族、そしてケアに携わる関係者による試行錯誤の道筋です。

私たちは、これまで数回に渡り、過去の認知症ケアに対するさまざまな視点を振り返ることで、認知症ケアを行なう際に同じ失敗をたどることがないようにしたいという願いを持っています。

そして今後さらに、私たちが認知症ケアの歴史を役立て、よりよいケアのあり方を目指し、努力していくことが期待されていると思います。

(参考文献:『改訂 認知症の人のためのケアマネジメント センター方式の使い方・活かし方』認知症介護研究研修東京センター 2006年)




Webセミナー42 スウェーデンにおける認知症ケアの理念と手法(1) 2008.10.31更新

私の仕事におけるミッションは、認知症になった方、それからその家族の方が、よりよい暮らしをおくることができるようにすることです。スウェーデンでの私の仕事は、とても幅広い領域にまたがります。現在、誰でも認知症の方と関わる可能性をもっています。ですから、ケアスタッフや家族の方の教育はもちろん、地域の方…例えば床屋さんやタクシーの運転手さんに対しての認知症の理解を深めるための活動など、認知症の方に関わる全ての立場の人に向けて、幅広く教育を行っています。

さて、まず最初に、認知症とはいったい何なのか、ということについて話をしたいと思います。いま、多くの人々がかかる病気(疾患)の第1位、2位、3位というものがあるとして、認知症はその中に入るほど、無視できないものとなっています。認知症以外には、心臓の病気や癌なども同じような状況にあります。

なぜ認知症というものが、ここまで大きな課題となるくらいに増えてきたかというと、いくつかの大きな原因があります。

そのひとつは、「高齢者の数が増えたから」です。高齢者の人数が増えると、当然ですが高齢者がかかりやすい「認知症」も増えていきます。以前と比べて平均寿命が高くなってきており、90歳100歳を超える超高齢者も増えている状況です。昔と違って、感染病などの様々な病気を治すことができる薬も開発され、「この病気にかかったら死んでしまう」というようなことも減ってきているからです。

日本とスウェーデンの共通点は、平均寿命がとても高い国であるということです。両方の国とも、世界でも有数の高い平均寿命を誇っています。平均寿命については、食生活というものが大きく関わってきます。日本料理は、もともと非常にからだにいい、健康にいい料理なので、そのことも平均寿命が高いことの理由となっています。

認知症は症候群といって、様々な症状の集合として成り立っています。脳の神経細胞が失われていくことによって、いままでできたことができなくなるなど、人間としての機能が失われていくようになります。あるいは、様々な症状が出始めてきます。

近年の研究によって、認知症になると脳のどの部分に障害が出るのかということがだんだん分かってきました。「この症状の場合は、脳のこの部分に障害が出ている」というようなパターンが解明されてきました。

いま、日本の人口の1.7%の人が認知症となっており、スウェーデンもだいたい同じような状況です。認知症になると、まずは人の感情的な部分に障害が出ることが多く、日常生活に影響が出てくるようになります。認知症になった場合は、認知症になった方はもちろん、その家族の人生も変わっていきます。


(※本稿は、2008年7月5日に舞浜倶楽部 新浦安フォーラムで行われたオープンセミナー「スウェーデンにおける認知症ケアの理念と手法」における、アンソフィ・オドワィヤーさんの講演をもとに作成しています。

今回からは、2008年7月5日に舞浜倶楽部 新浦安フォーラムで開催されたオープンセミナー「スウェーデンにおける認知症ケアの理念と手法」の内容をご紹介していきます。お話をしてくださったのは、スウェーデン 王立シルヴィアホームのシルヴィアシスターで、認知症ケアの専門家であるアンソフィ・オドワィヤーさんです。


(1)はじめに

私はアンソフィ・オドワィヤーです。スウェーデンから来ました。シルヴィアホームを卒業したシルヴィアシスターとして、認知症ケアにおけるスウェーデンのシルヴィア王妃の大使として日本で仕事をしています。


(※本稿は、2008年3月27日に舞浜倶楽部 新浦安フォーラムで行なわれましたスタッフ勉強会における、舞浜倶楽部 上坂氏(当時富士見サンヴァーロ施設長・現舞浜倶楽部ケア教育担当)の講義をもとに作成しております。




Webセミナー43 スウェーデンにおける認知症ケアの理念と手法(2) 2008.11.25更新

今回も、前回に引き続き、舞浜倶楽部 新浦安フォーラムで開催されたオープンセミナー「スウェーデンにおける認知症ケアの理念と手法」をご紹介します。

(2)若年性認知症について

現在の認知症の研究では、認知症を引き起こす原因と考えられるものは、約80以上もあります。

これまでは、高齢者になると認知症になるのだろうと考えられてきました。しかし、近頃では、30代から50代という比較的若い年齢の、働きざかりの人々に認知症の症状が表れる「若年性認知症」が多く見られるようになってきました。

若年性認知症とは、だいたい65才以下の方が認知症になる状態のことを指します。「若年性認知症」については、近年になって、急に増えてきたというわけではありません。むしろ、これまでは同じような症状が表れていても「認知症」として捉えられてこなかったのですが、実は認知症によって引き起こされた症状であったことが"発見"されたという状況です。

ただし、現代の生活からもたらされるストレスが原因となって、「若年性認知症」の方の数が増えつつあるということも、充分に考えられます。

認知症になりたいという人はいないと思います。それでは、認知症にならないためにはどうしたら良いのでしょうか。認知症にならないために、社会全体でいろいろな物事を考え直さなければならない時期にきていると思います。

(3)認知症の症状について…記憶障害

「若年性認知症」でよく見られる症状に、記憶障害があります。例えば人と会う約束をしていたのに、すっかり忘れてしまったりします。そのような場合には「短期記憶障害」が起こっているのです。

短期記憶障害とは、新しく知った情報を覚えることができない状態です。ですから、新しいことを身につけることが不可能になってしまいます。短期記憶障害になると、自分の知らない場所に行ったときに、よく道に迷うようになったりします。

これとは別に、過去に覚えていた出来事を忘れてしまい、まったく思い出すことができなくなってしまうというような症状があります。そのような症状については「長期記憶障害」といいます。

ちなみに、"物忘れ"という状態は、誰がなってもおかしくありません。例えば、自分の眼鏡をどこかに置き忘れてしまって、それを探している方がいたとしても、それだけで、認知症になってしまったというわけではありません。

>> 次号へつづく


※本稿は、2008年7月5日に舞浜倶楽部 新浦安フォーラムで行われたオープンセミナー「スウェーデンにおける認知症ケアの理念と手法」における、アンソフィ・オドワィヤーさんの講演をもとに作成しています。




Webセミナー44 スウェーデンにおける認知症ケアの理念と手法(3) 2008.12.15更新

今回と次回は、オープンセミナー「スウェーデンにおける認知症ケアの理念と手法」の中から認知症における様々な症状についてのお話になります。

(4)様々な認知症の症状について - 1

認知症の症状の主なものとして、記憶の障害の他にも様々な症状が見られるようになります。

【物事を認識・把握・判断する力の低下】
これは、「物事を認識」して、「状況を把握」し、「どのように行動するかを判断」するという、物事の認識力や論理的な思考力が衰えていき、いろいろな行動を行うことができなくなるというものです。

例えば、電話が鳴った場合に電話に出て相手と話すということは、普通はごく当たり前のこととして自然に行われていると思います。ところが認知症になると、電話が鳴っていてもそのまま電話に出ないでいるというようなことが起こります。電話が鳴っているのは分かるし、電話に出なければならないのも分かっているけれども、 実際に電話に出ることができなくなってしまうのです。

【失語】
会話をしていて言葉が出てこなくなったり、言葉の意味が分からなくなったりします。また、失語は口頭の言葉だけでなく、文章を読んだり書いたりすることも難しくなります。それから、計算もできなくなります。

ちなみに、スウェーデンの高齢者は数学を得意とする人が多く、逆に若い世代の人々は数学がいくぶん苦手なようです。これは、若い世代の人が〈計算機〉を用いて数学を学んだのに対し、高齢の人は〈頭〉で学んだからだといわれています。スウェーデンの今の70代、80代の高齢者は全てを頭で学んできたので、そう簡単に知識が失われないといわれます。

この失語になった高齢者がいちばん苦しいのは、自分が“痛み”を感じているときです。なぜかというと、自分の痛みや苦しさをどうにか表現しようとしても、失語のために相手にうまく伝えることができず、それが一番苦しいこととなります。あるいは排泄ケアが必要になった方が、トイレを探したけれども見つからないときに、それを上手に伝えられなくて、苦しい思いをされることもあります。

【失行】
これは、物事を認識する力が衰えてくることにより、部分的に物事ができなくなる症状です。例えば服を着るときにボタンを留められなくなったり、お箸を使って食事をすることができなくなったりします。

【認知面の障害】
例えば、たくさんの情報を受けとりすぎてしまい、受け手の認知力の許容量をオーバーしてしまうことがあります。今までニュースが好きだった高齢者が、10分位ニュースを見ているうちにイライラしてきて、部屋を出てしまうことなどがありますが、これはひとつの症例です。

また、例えば、自分の奥さんや身近な人の顔を忘れてしまい、夫婦がお互いを「あなた誰?」といったような会話をしてしまうこともあります。このように相手の存在が分からなくなってしまうのも、一例といえます。

>> 次号へつづく


※本稿は、2008年7月5日に舞浜倶楽部 新浦安フォーラムで行われたオープンセミナー「スウェーデンにおける認知症ケアの理念と手法」における、アンソフィ・オドワィヤーさんの講演をもとに作成しています。




Webセミナー45 スウェーデンにおける認知症ケアの理念と手法(4) 2009.2.16更新

(5)様々な認知症の症状について - 2

認知症の人の8割くらいの方が抱える症状として、「BPSD(Behavioral and Psychological Symptom of Dementia):認知症に伴う行動と精神の症状」があります。

【うつ状態】
いちばん良く見られるのは、うつ状態です。このうつ状態に対してどう対応するかということが注目されているのは、うつ状態から次の症状が生まれてくるということからです。

うつ状態になること自体は、おかしいことではありません。認知症によって、いきなり自分の人生が変わってしまうわけですから。今までわかっていたことがわからなくなってしまったり、今まで日常生活でできたことができなくなってしまう。こういう状態になって、うつ状態になることは、恥ずかしいことではないのです。

【妄想】
妄想という症状もあります。ケアの現場でよくあるケースは、認知症の方が「ものを盗まれた」と思ってしまうことです。今日はみなさんのうち女性の方が9割ですけれど、恐らくほぼ全員の方がハンドバッグを持っておられると思います。女性は、ハンドバッグの中に入っているものが自分の人生にとって大切なもの、ハンドバッグの中に自分の人生が入っていると思うような感覚が強いんです。

日常生活の中では、自分の大切なハンドバッグは、必ずいつも同じ場所に置いたりします。ところが、認知症がもとで、ハンドバッグをいつもの場所に置いても、置いたことを忘れてしまう。どこに置いたかを忘れてしまう。そういったことを経験した方は、落ち込んでしまうのですね。自分の大切なものはどこにあるのだろう、と。
また、ハンドバッグを隠したりする場合もあるのです。大切なものを隠して、それで記憶障害があるので、隠したことを本人も忘れてしまう。それも「どこに隠したか」を忘れるのではなくて、「隠したこと」それ自体を忘れてしまうのです。それで、後になって、ハンドバッグがどこにあるのかが、わからなくなってしまう。

ケアの現場のスタッフであれば、そういったハンドバッグが大抵どこにあるかはわかるのです。それはなぜかというと、何年もハンドバッグ探しの仕事をしてきているのですから(笑)。枕の下などにあることが多いのです。

【幻覚】
実際にはないものが見えるという、「幻覚」という症状もあります。蜘蛛などの虫や、ねずみとか、嫌なもの、怖いものが見えてしまうのです。

このように、他の人には見えない何かが見えるということは、その人にとって、それは真実であり、事実なのです。ですから、その人が何かを見ているということを、周りの人は受け入れなければなりません。それはその方の真実なのですから。

【混乱】
認知症の方が混乱を起こすのは、例えば新しい薬を使うようになった時や、施設に入居するなどして環境が変わった時などによく見られます。スウェーデンでは、認知症の症状が出ている場合にはなるべく薬は少なく出します。その薬もとても弱いものを出します。
そして、ある意味では薬を減らすためにも、その替わりにいろいろな補完的な手法が取られています。今日ご紹介するタクティールケアもそのひとつです。

混乱は、いろいろな感染症とも関わる場合がありますから、混乱が引き起こされる原因が認知症なのかどうかということは、よく調べなければなりません。例えば、感染症になったために身体が痛くなり、そのせいで混乱してしまうというケースもあるからです。

>> 次号へつづく


※本稿は、2008年7月5日に舞浜倶楽部 新浦安フォーラムで行われたオープンセミナー「スウェーデンにおける認知症ケアの理念と手法」における、アンソフィ・オドワィヤーさんの講演をもとに作成しています。

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